この授業が終われば、放課後だ。
また涼宮ハルヒに逢える。
こなたは、まださっきの出来事が夢なんじゃないかと、ひどく興奮していた。
もし夢なら、覚めるなと何度と念じた。 
   「う〜ん…。やっぱない…涼宮ハルヒの憂鬱…」
   こなたは、携帯をいじっていた。
何を調べているのかと言えば、ずばり‘涼宮ハルヒの憂鬱’をググってみたのだ。
結果は0件ヒット。
この世界では、本物の涼宮ハルヒが実在する代わりに、
涼宮ハルヒの憂鬱という作品は実在しないのだ。
こなたがよく行くニュースサイトや、ファンサイトもハルヒを無視して、別の話題で盛り上がっている。
こなたは、なんだが寂しい気持ちになった。
急に自分の好きな作品が見限られたようだった。
お気に入りのニコニコの動画が一気に消された時のような消失感。

しかし、その一方で面白い事にも気づいた。
ニュースサイトや動画サイトでハルヒを弾いて盛り上がっているのは、
この世界のオリジナル作品ではない。
こなたの元の世界でも流行っていた作品だ。
そして、‘ハルヒ’で検索した時も、出てきたのはホスト部という作品の藤岡ハルヒの名だ。
そこまでなら、もはや驚くというより発見というレベルだが、ここからが発想の転換。
   「ハルヒ以外でも、元の世界であったのに、この世界でない作品があれば…」
   それは、この世界で実在の人物としている可能性が高い。
現にFateを検索したら、全くひっかからない。
リトルバスターズもだ。
そして、ここからが未知の領域。
こなたは知っている作品名を片っ端からノートに走らせ、同時に携帯で次々と検索にかける。
見よ、この神技を!と自分で言いたくなるような気持ちで。
   「リリカルなのは…無いっ!」
   フェイト繋がりで調べた‘魔法少女リリカルなのは’、
これもヒット数ゼロだ。
   「ハァ…ハァ…!め…目がっ!目がぁぁぁぁっ!!」
   前日、ネトゲで徹夜していたこなたは、血走った瞳でノートと携帯に交互に目をやっていた為、もう限界だった。
目を開けているのが苦痛で、目を閉じ机に突っ伏す。
寝てはいけない、と念じながら。
寝たら、この夢から覚めてしまうかもしれない。
授業終了ギリギリまで調べて、こなたは収穫にある程度満足していた。
無かったのは、ハルヒ、Fate、なのはの他に…
   「にぱぁ…」
   ここから少し自分を誇らしいと自画自賛しながら、ニヤけるこなた。
コードギアス、ひぐらしのなく頃に、灼眼のシャナ、ゼロの使い魔、ガンダムSEED、
つよきす、初音ミク、ローゼンメイデン、月姫、アイドルマスター、そして東方project…
まだ他にもあるかもしれないが、これだけでも
こなたが心躍るのには充分過ぎるほどだ。
もし、これらのヒロインやキャラクター達と、先ほどのハルヒのように
直に逢えるのなら、もう死んでもいいと思った。
一生涯で得られる幸せを、これから全て得られるかのごとく幸せだ。
   「実在のガンダムを見たりも出来るのかな…」
   実在のガンダム。そんなものを見た人は、世の中で一人もいないはずだ。
それが、見られるかもしれないのだ!
しかし、それは同時に、こなたに謎の悪寒を走らせた。
頭が疲れて、なぜ悪寒が走ったのかは解らなかったけど、
何か胸に軽い怖さを感じていた。
   
   放課後になり、ハルヒを探し回っていたこなたは、
弓道場でハルヒに加え、Fateの凛やコードギアスのカレンと出会った。
直接話せなかったけど、リトバスのクドや佳奈多、それに東方のチルノもいた。
こなたは終始、興奮しっぱなしで、揉めていた相手の慎二をみんなでぶちのめした後は、
なぜか一人教室に戻って、ハルヒ達とは別れてしまった。
一度一人になって、この幸せを噛みしめたかったようである。
   「はぁ〜ぁ…さいこぉ…。神様、ありがとぉ…」
   そこへ、かがみが登場。
   「ねぇ、こなた…?アンタ、なんか気づいてない?」
   こなたは、自分だけがこの夢のような世界へ来たのだと信じていた。
かがみも一緒に来た、なんて微塵も思っていない。
それは、かがみがそれを匂わせる発言を一切していないので、
気づきようがないのだが。
   「!…ううん!別になにも…!」
   こなたは思った。
かがみは、この夢から目を覚まさせるために、
現実から送られてきた使者だと。
アニメでも、夢オチは必ず
「お〜い、起きろ〜?」
みたいな事を、母親とか妹とかに言われて、
現実へ帰るのがほとんどだからだ。
だけど、その言葉を受け入れるまでは、
夢を見続けられるというのも、また定番だ。
   「か、かがみ…!私、ちょっと用事があるから
先帰るね!ごめん!」
   「!?…ち、ちょっと…!こなた!?」
   こなたにとって、かがみは現実の象徴である。
この夢のような世界を終わらせる、目覚まし時計なのだ。
勿論、本当にそんな理由でかがみから逃げたわけではないが、
こなたはまだ、この世界で夢の続きを見ていたいから、
少しでも現実に帰りそうな出来事は避けたかったのだ。
   「何か気づいてないか・・・って。うんって答えたら…きっと…」
   『(空想)そんなわけないでしょ?いい加減目を覚ませ!っていうか、起きろ〜!』
   …となるに違いない。
あまりに簡単に想像できたから、避けてしまった。
この夢が、もしあまり先がないのなら、今のうちにもっともっと堪能して、
思い出を増やしておきたい。
起きたら、忘れる前にノートに全部メモって、
後から幸せに浸れるように。
その幸せを堪能するために、こなたは再びハルヒを探す事にした。


その5へ続く
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