「ハァ…ハァ…。やっと見つかったよ…」
   時間は、既に夜の10時を回っていた。
こなたはやっと、ハルヒの居場所を突き止めた。
Fateに出てきた、衛宮士郎の家。通称”衛宮邸”だ。
セイバーvsキャスターなど、数々のバトルが繰り広げられた場所。
校内のどこを探してもハルヒが見つからず、
先生にハルヒの住所を聞いてみたが、
こなたはハルヒが自宅に帰っているとは思わなかったのだ。
   「ハルヒの自宅へ行くわけにはいかない…!」
  涼宮ハルヒという人は、自宅や家族構成が原作で明らかになっていない。
だから、そのハルヒの家を見るという行為は、
ヲタクとしてやっていけない事、というのがこなたのポリシー。
そこで、町中でハルヒを見かけなかったか
刑事の聞き込みがごとく調べ回り、やっと居場所を突き止めたのだ。

校内で、生徒会長のミレイなどアニメのキャラクターに何人も出会えたが、
こなたは感動を我慢しつつ、妥協を避けた。
ハルヒは、こなたをSOS団のメンバーとして迎えようとしてくれた。
かつ、こなたは涼宮ハルヒの大ファンである。
だから、ハルヒにもう一度逢う。ハルヒと思い出を作ると決めていたのだ。 
   「ぴんぽーん」
   チャイムを押したが、返事はない。
裏庭にまわってみる事にした。
   「あっ…!」
   こなたは、目を疑った。
   「有希っ!やめて…!」
   「涼宮ハルヒは…排除の対象…」
   「そうはさせませんっ!ハルヒ、下がって…!」
   「負け犬の月の民が今更…笑わせてくれるじゃない?」
   「その割には押されてるじゃない?口より手を動かしなさいな」
   裏庭では、こなたにとって見た事ある面々が
激しいバトルを繰り広げていた。
   「す…凄い…」
   
   ところが。
  「あ、あわわわわ…」 
  「盗み見なんて趣味が悪いぜ?ちっちゃな嬢ちゃん」
   ランサーは、自慢の槍をこなたへと突きつける。
頬を膨らませている余裕なんてなかった。
   「あ、あの…」
   「俺は気が短くてね。…死ぬ覚悟はまだかい?」
  これが、聖杯戦争に関わった一般人の末路。
それは、士郎のエピソードの再現だった。
士郎はセイバーを召喚して急死に一生を得たが、自分はどうだ?
もうセイバーは、ハルヒが召喚してしまった。
それ以前に、自分がサーヴァントを召喚出来ると考えるほうが大間違い。
聖杯戦争を見た一般人は、殺される。

まさかアニメキャラに、本当に命を脅かされるなんて。
よく、○○にだったら殺されていいなんて言うが、
勿論冗談で、命を本気で天秤にかけるわけがない。
世界で初めて、アニメキャラと直に話したヲタクになったのに、
アニメキャラに殺されたヲタクになってしまう。
こなたは歯を食いしばった。
今まで生きてきた中で、一度も感じた事がなかった感覚…
殺意だ。
   「おとなしく、釣りでもしてればいいのにさ…」
   ランサーから目をそらすこなた。
目を直視する事さえ恐ろしい。
槍を視界に入れたくなかった。
なぜなら、その槍によって、自分の心臓が貫かれる事が解るから。
冗談は、きかないようだった。
   「や…やだぁぁぁぁぁぁっ!!お父さぁん!お母さ…っ!!」
   「…言いたい事はもう済んだな。ハッ…」
   普段、邪険にしていた運動神経に全てをかけたこなたの5秒に、
ランサーは一瞬で追いついた。
心臓がはち切れそうで、もうすぐ本当にはち切れる事になる。
   「…。…」
   最期に思った事は、ありきたりだった。
自分は…幸せだったと。
   「きゃぁぁぁぁっ!人殺しっ!」
   その時だった。
ランサーの背後から、こなたとは別の悲鳴が聞こえた。
声が高過ぎる悲鳴だったため、正式に識別出来なかったが、
なぜかこなたには聞き覚えがある声だった。
   「ちっ!もう一匹まぎれこんでたのかよ!」
   ランサーが振りかえる。
こなたも、覚悟で硬直した筋肉になんとかもう一度力を入れた。
そして、振り向く。
そこには、悲鳴の主がいた。
   「!?…かがみっ…!?」
   ランサーが、かがみに狙いをつけ、槍を構えた。
かがみは、その場から動こうとしなかった。
距離はそうない。
こなたと目が合った。
   「ば…バカァッ!さっさと逃げなさいよ…今のうち…に…」
   こなたは、ようやく状況が飲み込めた。
かがみはこなたを助ける為に、わざと悲鳴をあげ、注意を向けたのだ。
…命を顧みずに。
   「友情ごっこに命をかける気かい?…そういうの嫌いじゃないぜ」
   そう軽口を叩くも、ランサーの手元に容赦などは感じられない。
と、その時だった!
   「なっ…!?」
   ランサーが咄嗟に身を翻すと、その場所に大きな穴と、焼け焦げた臭いが漂う。
そして、一瞬視界が真っ白になっていた気がする。
   「………」
   「なんだ…?…どこからだ!アーチャーか?」
   ランサーは空を見た。
こなたも追って空を見たが、なにも見えない。
夜空に目を慣れると、無数の曇が見えるくらいだ。
   「ちっ!このままじゃ狙撃されるか…」
   ランサーはこなたの前から消えていった。
アーチャー。
すなわち、凛が連れた赤い外套の男が助けてくれた…と、
ランサーの一人ごとを鵜呑みにするならそう解釈出来るのだが、
今のこなたにそんな余裕はなかった。
一度へたりこんで、しばし立ち上がれなくなかった。
しかし、視界の先にいた親友は違った。
こなたに近づいてきて、いつのまにか目の前へ。
   「か、かがみ…」
   そんなかがみの姿を見て、こなたも精一杯の力で立ち上がろうてするが…
   「うぐっ!」
   かがみに思いっきり胸倉を掴まれてしまう。
しかも、極度の緊張のためか、力が半端なくこもっている。
   「だから…っ!アニメキャラに関わったらダメって思ってたのに…!
案の定じゃない…!?」
   「え…?」
   「私…っ!アンタがお母さんの後…追おうとして、諦めるんじゃないかって…!」
   かがみは泣き出していた。
必死に手で拭う。
それでも、片方の手はこなたの胸を掴んだままだ。
   「いや…。普通にそんな事ないから、大丈夫だって…」
   こなたにとって、かがみの心配は寝耳に水だった。
母の後を追おうなんて、さすがに思わなかったから。
死の覚悟はしたけど、死を肯定するような気持ちは無かったのだ。
それよりも、アニメキャラに関わるなとか、なんでこんな所にいるのか、など
かがみの行動には疑問が多かった。
   「はいはい。私は大丈夫だから。大丈夫だから、少し落ち着こう。ね?」
   こなたは、かがみの背中をさすって、落ち着かせようとした。
かがみは、顔を見せないよう俯いて泣きじゃくっている。
不思議と、自分より弱ってる人をいたわっていると、自分の疲れは体が勝手に度外視してくれる。
極度の緊張と恐怖に襲われ、ぼろぼろなはずだが
、こなたもかがみの背中を撫でながら、少しずつ緊張が解けていく。
すぐ側で争い合う音がするが、駆けつける力も手もない。
自分達がまた襲われる可能性はまだ充分あるのだが、もう気を張るのは無理だった。
争いの音よりも、自分の呼吸と心臓の音が勝ってしまうのだから。
   「どぉどぉどぉ…」
   「…馬か…私は…」
   無駄口を叩いて、ツッコミが返ってくる。
それがこんなにも愛しく感じるなんて。
でも、今はこんなどうでもいいやりとりが必要だった。
アニメキャラという非現実な存在から与えられた、
リアルな死の恐怖は、一生トラウマになる事請け合いだ。
こなたは、大きく溜め息をついた。
   
   2巻に続きます


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