「zzz…」
   世の中がどうあろうと、自分の世界を守る存在。それがヲタク。
穂群原学園に通う泉こなたも、そんなヲタの一人のはず。
世の中のどこで戦争が起きていようが関係ない。
自分には、自分の暮らす世界がある。予定がある。
だから、今週はテストを乗り切ったから、
思いっきりネトゲで廃人化し、フラフラな体を引きずって秋葉へ行こう。
こなたの親友、柊かがみは、
どうせそんな週末を過ごすんだろうと、
彼女に対して毎度お馴染み、心底呆れていた。
   「おーい、起きろーこなたー」
   「うにゃ…」
   昨日ネトゲで貫徹したらしいこなたは、
心配してしまうほど目が充血していた。
だが、寝てだいぶ治ったようだ。
ちなみに、今授業が終わった所である。
   「あれ…?かがみ…」
   「寝ぼけんな」
   オープニングは、幼馴染みに眠りから起こされるのが定番。
‘そっかぁ?かがみは私の幼馴染みだったのかぁ’
なんて、何度同じ事を言われたことか。
しかし、今日は変化球が飛んできた。
   おっかしいなぁー?私、まだ夢の途中?セーラーふくと機関銃?」
   「…すまん。ネタが解らん」
   「これだからゆとりはー!…じゃなかった。…あれ?
あそこにコスプレしてる子がいるよ?桜藤祭はまだ先じゃん」
   「!?」
   「?…どったの、かがみ?怖い顔して」
   「ううん…続けて」
   「あれ、リトバスの制服じゃん。下級生かな?」
   「…では、失礼しました」
   こなた達は三年生。ドアの前で、
プリントを渡して去っていた所を見ると、確かに下級生のようだ。
   (…間違いない!こなたは、私と同じ世界から来てる…!)
   かがみは確信した。
桜藤祭というのは、かがみが本来通っているはずの
稜桜学園の文化祭の事である。
それに、かがみ自身、つかさに言われるがままやってきた
この穂群原学園で、一番不可解だったのは、
制服が一種類ではない事だった。
自分達と同じ制服を着てる生徒もいるが、
全く違う制服、しかもどこか現実離れしたものもある。
  (回想)「生徒会長さんの方針なんだよ〜?いいよね〜♪」 
   あと、日本人以外の生徒が結構いる。
稜桜学園の頃は、外人なんて下級生のパティ一人だったのに。
   「…お〜い?帰ってこ〜い、かがみんや〜?」
   「…あ。ご、ごめん…」
   「いやぁ…。とうとう我がクラスにも、
萌えの波がきましたなぁ☆ほら見て?あっちはシャナの制服だよ!」
   こなたは、異世界に来た事にまだ気づいていないらしい。
一刻も早く、屋上にでも拉致って、
自分達の境遇が変わってしまった事を伝えたかった。
   「おかしいなぁ?まだ夢の中なのかなー…
ほんと、夢みたいだよ。だって、このクラスでヲタって
私しかいなかったのにさー…」
   「(…早く気づけ、バカこなた!)」
   「あれ…?でも、あんな子…クラスにいたっけ?」
   「(そうそう…!その通りよ!)」
   「ま、気のせいか。そもそも、クラス全員の名前と顔、知らないし」
   「(…最低な奴だな、おい)」
   「はぁ〜あ…。さっき夢の中で、かがみがFateの凛のコス
しちゃっててさぁ…?これが似合うんだよねー」
   「(…だめだコイツ)」
   そこへ、つかさとみゆきがやってきた。
四人は、いつもクラスでお喋りしている友達だ。
二人とも、お手洗いに行って、帰ってきたようだ。
   「あら?遠坂さんの話をされてたんですか?」
   こなたがビクンと反応し、眠りの意識など
どこへやらといった感じで脳が目覚めた。
   「なにぃっ!?みゆきさん!Fateやってくれたの?
おーおぉ、布教の甲斐がありましたなぁ!」
   こなたは、みゆきの両手を握ってがっちり握手したが、みゆきは困り顔だ。
かがみが強引に引き離す。
   「泉さん…。何か勘違いされていますよ?
Fateというのが何のゲームかは解りませんが…
私が言っているのは、二年生の遠坂凛さんの事ですよ?」
   「有名人だもんねー、凛ちゃん」
   「はい…?同姓同名?」
   まさか、同姓同名が学校にいる?
こなたは落胆した。
これがギャグ漫画なら、超ド級のブスがその人だったりするのだ。
テンションが下がる。
   「その…遠坂凛って可愛い?」
   興味本位で聞いてみた。
   「はい。女の私から見ても、美人だと思いますよ?
可愛いというより、かっこいい感じです。憧れてる方も多いみたいですよ」
   「ニーソ履いてる?絶対領域ある?」
   「…え、えっと…」
   「どうなのっ、つかさ?」
   かがみも真剣だ。
かがみはFateをやった事はなかったが、
こなたの口ぶりからすると、ゲームのキャラクターなのは間違いない。
それが、この学校にいる?
もしかしたら、この環境の変化の答えになる可能性があるかもしれない。
   「え…えぇっと…!ニーソックス履いてたよ。
絶対領域…た、多分あるよ…ね?お姉ちゃん?」
   「…私に聞かれても」
   「ツインテール?」
   「う、うん…」
   「ツンデレ?」
   「ツンデレってなに…?」
   「かがみみたいな人の事」
   「おい…」
   「うん!」
   「おぉい!?」
   「中の人は?」
   「な…なんの事だか解んないよ〜」
   「おらっ!カツ丼とってやるから、ちゃっちゃと全部吐け!
ちなみにカツ丼自腹ね」
   「ふぇぇ〜ん…。今月はお金ないのにー」
   「つかさをイジめるな!あとつかさもノるな!」
   会話の脱線は、毎度いつもの事である。
だが、今日のこなたは普段より一段と興奮していた。
   「服がさ…?赤くて、胸のあたりに銀色の十字架の刺繍がない?」
   「し、私服の事ですか…?…はい。一度お見掛けした事が…」
   「キターーーーー」
   こなたは、はた迷惑な歓声をあげて、教室を飛び出していった。
   「皆の者、であえであえー!」
   来い、という意味らしい。
つかさとみゆきが苦笑いし、かがみは大きな溜息をついた。
それでもついていくのが、4人の友達関係なのである。
   「(これで、もしその遠坂凛が本当にいれば…
私の仮説は確証に変わるわ…!)」

その3へ続く
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