VOL1より、こなたとハルヒ出会いのシーン

廊下を、よく考えれば目的地もなくダッシュしていたこなた。
強いて言うなら、走りたいから走るんだ!という感じ。
「ぬわっ!?」
階段の死角から現れた生徒とぶつかりそうになり、緊急回避して転倒。
相手も倒れてしまったようだ。
しかし、相手は当然パンをくわえた転校生じゃなかったのでガックリ。
「アンタっ!どこに目ぇつけてんの!?
この私になんかあったら、どうする気なのよ!?」
相手の発した声を聞き、こなたの頭に電撃が走った。
ニュータイプが出すピリピリみたいなものだ。
現実世界では到底ありえない、文句のセリフ。

そして、この次世代的(←こなた評価)アニメ声!
こなたがモノマネの十八番にしているキャラクターだ。
「まっ…まさか…まさか…!」
頭に黄色いカチューシャ。
北高の制服。
団長の腕章。
そして、そのぶんぶくれに怒った顔。
その人こそ、まさしく…
「涼宮ハルヒの憂鬱…!」
「!…だっ、誰が憂鬱なのよ!?失礼ねっ!」
思わず、キャラクター名もろともタイトルを叫んでしまったこなただが、間違いではなかった。

目の前にいる人こそ、アニメで大ブレイクした人気小説、
‘涼宮ハルヒの憂鬱’の主人公、涼宮ハルヒその人だった。

どんなコスプレイヤーでも及ばない、この声、この姿、この感覚。
こなたは今、どんなヲタでも誰一人成し得なかった‘アニメキャラ本人に逢う’を実現したのだ!

勿論、中の人に逢った事を非ヲタのテレビレポーターから‘本物に逢えた’なんて言われるような生温いものではない。
いや、それはそれで是非とも成し得たいと思うこなたではあったが。
「あ…あっ…あくしゅ…」
「はぁ?何言ってんの?」
よく考えたら、アニメキャラと握手するというのは、不思議な現実である。
仮に、夢の中でアニメキャラと出会ったからと言って、握手を求めるだろうか。
有名人とはちょっと違う。
こうして目の前にいる時点で、自分とハルヒは対等なのだ。
「否!!
泉こなたはヲタでありながら、自ら萌えキャラを目指す指名を帯びているのだ!
握手なんてしたら、普通のヲタと代わらないではないか!?」
「…え?わ、私に同意を求めてたの、今の」
こなたは、深く深呼吸をした。
「落ち着け、こなた…。緊張するな。いつも通り。いつも通りトリガーを引くだけでいいんだ…」
ぶつくさ言っている間に、かがみ達が追いついた。
廊下は走らず、歩いてきたようである。はなまる。
「げっ…!涼宮ハルヒ…!?」
「!…お、お姉ちゃん!しぃー…」
学校中に轟く、関わりたくない人ナンバー1、涼宮ハルヒ。
しかし、こなたにとってハルヒは迷惑な後輩ではなく、超人気アニメのヒロインなのだ。
「(そうか…!ハルヒは一年生だから、後輩じゃないか!
よ…よし!泉先輩!…うん。悪くない)」
ハルヒ声で、「泉先輩っ!」を脳内再生。意外と悪くないようだ。
「ぴしっ!」
こなたがハルヒを指差した。

あたりに緊張が走る。

ハルヒでさえ、一瞬息を飲んだ。
「宇宙人、未来人、超能力者がいたら私の所に来なさい。ただの人間には興味ありません。以上」
…………
ハルヒを含め、全員が目を丸くした。
あ、あれ…私…
今、喋った…?」
ハルヒは混乱した。

自分の声が、自分の口以外から聞こえたのだ。
そんな錯覚は通常ありえない。
録音した声だって、絶対に自分の声とは別に聞こえるはず。
だが、今のこなたのモノマネは、全く違和感や不快感がないのだ。
「やったぁ〜☆ほ…本人の前でやれた!私の十八番!完璧っしょ〜」
こなたのモノマネの十八番は、何をかくそう涼宮ハルヒだった。
「来ないと死刑だから」
もう一発。
またも、ハルヒに錯覚を与えた。
「あ、アンタ…」
「はい?」
ちょっといい気になってしまって、こなたはつい上から口調で返事してしまった。
「ちょぉぉ面白いわ!!」
「えっ…?」
「今決めたわ。あなた、SOS団に入りなさい!こんな不思議を体感したのは、生まれて初めてよ!!」
なんと!SOS団に誘われてしまった!

どうする、こなた!
「だが断る!」
「へっ?」
こなたは断った。

SOS団のメンバーは、
ハルヒとキョン、宇宙人の長門有希、
未来人の朝日奈みくる、そして超能力者の古泉一樹だけ。

準団員や、一回ぽっきりの顔出しくらいなら許されるが、
SOS団に泉こなたが入るなどと、
涼宮ハルヒシリーズファンのこなたとして、許さるはずがなかった。

原作ファンに怒られる。
というより、何よりも原作ファンであるこなた自身がそれを許せない。

邪道だ。邪道過ぎる。

だから、こなたは断った。
ヲタクのプライドにかけて
「ふふふっ…」
対して、ハルヒは薄気味悪い笑みを浮かべた。
「ますます気にいったわ!
よ〜し!入らないなら、力すぐでも入ってもらうわ!拉致よ拉致!」
「な…なに!?
それは国際的にマズいネタなのでは…って、あ〜れ〜」
ハルヒは途端に、こなたに襲いかかり、問答無用ではがいじめにした。
う〜ん…アンタ、胸ないのねぇ。萌えが足りないわ」
普段、みくるを襲いまくっている為、
物足りない様子のハルヒ。

しかし…
「な、なんですとー!
涼宮ハルヒ!
一巻を読んだ時から思ってたんだけど、君の萌え基準には意見がある!」
こなたの反撃。
「胸の大きさが正義か?
胸が大きければ萌えキャラかっ?
答えはNO!
現にみくるよりも長門のほうが人気が高い!
ヲタは貧乳にこそ萌えを求めているのだ!
貧乳キャラが小さな胸を気にするしぐさ!
これこそ萌え!
君は真の萌えを解っていなぁい!
これだけは、本人に直接逢って言いたいと強く思った!!」
ハルヒの魔の手から抜け出して、再度ハルヒに指差す。
「ふっふっふ…ずっと私のターン」
不敵に笑うこなた。
「…なによ。私が萌えって思ったら、それが私にとっての萌えなの。好みなんて人それぞれでしょ?」
「!ぴし…」
こなたは石化し、ヒビが入った。
「ぐぐぐっ…。いつも破天荒な発言しかしないのに、何故私にだけそんな正論を…」
「そりゃ…アンタのほうがバカだからよ」
「な…なぜだぁぁぁっ…!」
「自爆しましたね、泉さん。ふふっ♪」
「ぐぐっ…任務了解」
こなたは敗北した。
自爆をもってしても、ハルヒには敵わないだろう。
なんか知らないけど、私の勝ちね♪SOS団に入って貰うわよ?えっと…こなたちゃんね?」
「は、はいぃ…。あぁ、やっぱり名前を呼ばれただけで嬉しい自分がいる…」
「おい…。先輩じゃないのか…?いいのか…こなたちゃんで」
「くっ…まだだ。まだ言いたい事は終わってない!
まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!」
こなたには、先のハルヒの意見にへこまされても、
なお食い下がれない、萌えの主張第二部があるようだ。
だが、いっぱいいっぱいなのがもう見え見えで、
ギャグの使い方も間違っている。
「あ、あんた?私の事知ってたわよね?涼宮さんって」
ハルヒが、みゆき達に視線を移す。
「え?ええ…涼宮さんはなんというか…有名人ですから」
「あんた達も?」
「は、はい…」
「こなたちゃん、アンタは?」
「小説とアニメと漫画と同人誌とネタMADと…。
あ、黒歴史の漫画も一応。
不肖にも、アニメ始まってからのファンでして…」
「……!」
「うぅ〜む…」
ハルヒがなにやら唸り出したが、
こなたの発言は少なくとも関係なく、
‘誰もそんな事詳しく聞いちゃいない’というレベルで片付けられてしまった。
「こなた。アンタもう団員よね?ちょっと来なさい?他のみんなは帰ってよし」
ハルヒは勝手に仕切りだし、こなたの手をひいてダッシュ。
かがみ達は呆然としたまま、それを見送った。
「も、もう呼び捨て…。しかも団員断ったのに…」
「ど、どうしよう…?追いかける…?」
「…放っておけば、そのうち帰ってくるわよ。それより…」
三人の脳裏に絶望がよぎる。
「まだ、食べてませんでしたね…お昼…」
無言が辺りを支配し、やがて大きな溜め息がシンクロした。



「アンタ?有希やみくるの事知ってたわよね?居場所解る?」
屋上に抜けるドア口にこなたを追い詰めたハルヒは、尋問を開始。
「え?う〜ん…。
長門なら部室、みくるなら上級生の教室じゃないかなぁ?」
「いないのよ。それどころか、有希は存在すら知ってる人いないし、みくるちゃんは行方不明で…」
「キョンや古泉は?」
「アンタ…やけに私の交友関係詳しいわね。ストーカー?」
「原作読んだから知ってるだけ…って、そろそろ私、こういう話やめたほうがいいのかなぁ?」
こなたは、流れに任せる人間だ。

例えこれが本当の出来事であろうと、
何故そんな事が起こるのかなんて悩まないし、夢オチならそれはそれでいい。
要は今が楽しめればいいのだ。

でも、ここまでの言い方では完全に涼宮ハルヒの揚げ足とりである。
「いないわ…。有希と同じ。部室もないし…
第一ここ、北高じゃないでしょ?
ほむらばら…とかって…
私、北高の生徒なのに、朝起きたらこの学校の生徒って事になってたのよ」
ハルヒは心配事、つまり弱みを打ち明けるような可愛らしい顔でこなたに話をしている。
実に萌えだとこなたは思ったが、また揚げ足をとりそうだから心の中でのみ、自分と自分で会話。
私、こなたを今日初めて見たし、
クラスも知らない人が多かったの。
でも、全員知らない人なら違う学校なんだって、
まだ納得がいくじゃない?

違うのよ。
前、北高にいて知ってる人もいたのよ。鶴屋さんとか」
「ちゅるやさん!」
「つ・る・や・さん!まあ…それでみくるちゃんが行方不明って事、知ったんだけどさ…」
「未来に帰った…」
「え?」
「な、なんでもないよ〜」
「…まあ、仮にみんながいなくても、アンタも加わってくれたし、SOS団はやれるけどさ…」
ハルヒが寂しそうに拗ねてるのを見て、
こなたも同意見だと答えた。
SOS団は、やはりあの4人がいてのSOS団だ。
特にキョンがいない事は、ハルヒにとって耐え難い試練だろう。

死んだわけではないだろうが、それは朝倉涼子が言った、
キョンを殺した後の世界と言えるのかもしれない。

しかし、こなたにはやはり気がかりな事があった。
「…私もさー、知ってる範囲なら力になりたいけど、
こんな展開は見た事ないんだよね。この穂群原って高校、Fateだし」
「ふぇいと?」
ハルヒが?を浮かべる中、こなたはこなたなりの答えを導き出そうとしていた。
「考えられる可能性は二つ…。私が知らない同人か…。
もしくは角川が…。Fateは少年エースで連載してるし、ハルヒはガチ角川だし…」
「カドカワ?」
「宣伝してたじゃない?ニュータイプの」
「…???」
あの傍若無人な涼宮ハルヒを困らせるとは、なんて事をしてるんだろうと思いながらも、
こなたは珍しく真剣に答えを考えているのだ。
「ハァ…。解ったわよ。
認めたくないけど、話を合わせたほうがいいだろうから、認めてあげるわ。
こなた?
アンタはアンタの元いた世界で、私の日々が書かれた小説や漫画を見ているわけね?」
実に的を得た真実を、ハルヒは口にした。
こなたは、自分が何かに巻き込まれたという感覚にドギマギしながら頷く。
「…う、うん…」
「なるほどね。
じゃあアンタも私と同じ、急に世界が変わっててとまどってるのね?」
実際、あまりとまどってはいないのだが、
とりあえずYESと。
消えた友達や見かけない人物がいたか?という質問には、
とりあえずかがみ達3人はいた。
いない人間は涼宮ハルヒと、見てはいないが鶴屋さん。
全て、自分が元の世界でアニメや漫画で見たキャラクターなのだと伝えた。
「…こなた。アンタは…どう思う?
この世界…もう帰りたい?
それとも、もう少しここにいたい?
ずっとここにいたい?
帰れるか帰れないかは別にして、気持ちを知りたいの…」
ハルヒの少し低くなった真剣な声には、
アニメ中もドキッとさせられたが、
実際本人から目の前で自分に向かって言われると、
たまらなくドキッとする。

逃げ出してしまいたいくらい、鳥肌がたつ。
「私は…もうちょ〜とここにいたいかなぁ?なんとな〜く」
とりあえず、無難な選択肢を答えた。
こういう三択は、とりあえずハルヒが望んでいるのを答えるべきだと、
ギャルゲー歴戦の勇士である脳みそが伝えてきたが、
等身大の本人を前にして、

どれがハルヒの望んでいる答えかなんて解らなかった。

面白い事、不思議が生き甲斐のハルヒだから1番。
しかし、実は寂しがり屋でキョンが今の所側にいない世界だから3番。
どちらも有り得るがゆえ、危険な選択肢だ。
勝手に番号までふって、結果こなたは2番にしたのだが、
ついて出た感想は‘なんとなく’
「あぁ…死亡フラグたった…」
こんな答えじゃないと思っていたのだが、
この場合主人公は泉こなた。自分である。

‘なんとなく’は、こなたが実に望んでいる答えなのだ。

ある程度、この世界で楽しんで、飽きたら帰る。

まだ凛にも逢ってないし、凛がいるならセイバーもいるはず。
逢わずに帰るなんて、奇跡の状況に恵まれたヲタ代表として、完全に失格!

しかし、ずっと止どまるのはどうだろう?
どんな漫画やゲームでも、大抵元の世界へ帰るだろう。

親が心配しているとか、現実の世界じゃ行方不明扱いなのかとか、
そういうネタが出てきてしまう。
「……」
そんな葛藤に対して、
ハルヒはもうこなたの性格をもう見抜いてる様子で、
ハルヒは溜息を一つつき、ぷいと暗めに拗ねた。
「アンタはいいわよね…。
私だって、有希やみくるちゃん、古泉君がいたら…
絶対帰りたいなんて思わないわ」
こなたは、一つにやりと笑った。
キョンをあえていれない所が、ツンデレなハルヒらしい。

お約束の、ツンデレいじりを凄くしてみたくてウズウズするこなた。
これは完全なツッコミ待ちとこなたは判断した。

だが、タイミングを失った。
やはり漫画じゃないので、思ったようにツッコミを入れるのは難しい。
待ってくれるわけじゃなく、とっさの判断力がものを言うようだ。
「ハルヒが消失した話なら、知ってるんだけどなぁ…」
「…なんで私が消えなきゃいけないの!?主役は私なんでしょ、それ!」
ハルヒはどうやら、自分がよその世界で人気な事を喜んでいるような節が見てとれた。
‘最後どうなった?’と、度胸ある質問をしてきたので、
まだ続いていると、こなたは真実を伝えた。
一種の有名人感覚だろうか。
確かに、自分がどこかで有名なら、鼻が高くなるのは当然だ。
「あ…チャイム…」
「う〜ん…。とりあえず、私はね?
有希達を探しつつ、新生SOS団を活動させたいと思うの。
アンタの、お話の中の私の話ももっと聞きたいしね」
「は、はい…!光栄であります」
とは言っても、確かにハルヒが不思議を起こした事件が客観的に描かれてはいるが、
基本あれはキョンの毒舌日記で、
しかもハルヒのデレがこれでもかと納められている。

激怒なんてものじゃ済まないだろうから、
内容はだいたい覚えているものの、お茶を濁す事になりそうだ。

それ以前に、ハルヒが神がかった力を持っている事が描かれているので、
当然目の前のハルヒが力に気づいてしまう。
それは原作の流れを大きく壊す事になり、
一ヲタ一ファンとして避けねばならない、とこなたは誓った。
「あ、あとね…」
「ん?」
去り際に、ハルヒが一言。
「…貧乳っていうのも、萌え要素として考えといてあげるわ。…じゃあね」
去っていくハルヒ。
「キターーーー!」
これが涼宮ハルヒのデレ。

こなたは、ごろごろと転げまわりたい衝動を抑えるのに大変で、
両手で両腕を抑えて、しばし悶絶していた。


その4へ続く
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