HOME 鳥の検索表 鳥は友達 今日のバードウオッチング 山歩き里歩き 地域別一覧表 文化愛媛

原点 89号 2004年・夏季・松山 2004年7月30日発行
 
代表者・図子英雄 発行担当・兵頭道子 定価500円A5判140ページ

【販売書店】は愛媛県松山市内の書店など(書店名・所在地・電話番号は) → こちら
       店頭では、8月4日以降販売予定。

原点89号表紙、扉絵

     表紙絵・扉絵  伊東晴江     (フランスにて)

【目次】
(創作)   永き遠足        泉原  猛  (111枚)
       壷           梶原 隆司  (34枚)
       柔らかな箱       織田こべに  (40枚)
       他人の色        菅原 元之  (37枚)
       レモンスカッシュ    夏目  楸  (23枚)
       鴇の色         K・ドリー  (33枚)
(評論)   芳醇な歌集『若葉の径』 図子 英雄  (18枚)
(エッセイ)「散骨」の儀       郁野奈知雄
       やわらかな心      赤松 宜子  (13枚)
       追憶          大喜多久子  (10枚)
       八十歳の詩       井谷五十鈴   
       行く春         楠目 葉子
       住めば都        多田 曄代  (11枚) 
(詩)    伐られた楠       図子 英雄   

              あとがき 同人の近況・告知板
  
原点」の「原点」のトップページへぺーじ

【各作品の冒頭部分の紹介】

泉原 猛 「永き遠足
    1
 校庭の桜の若葉が揺れていた。昼のご飯を済ませ、正太は学校に戻る。正太の家は滝野中学校から三百メートル余り、通学区域内でもっとも近距離といっていい。
 クラスメートの何人かは標高五百メートル余りの五本松の峠を越え、その向こうの集落から通って来る。萩山校区の連中である。雨の日も風の日も、雪が膝上まで積もった日も変わることはない。雪の日には、彼らの膝から下はびっしょりと濡れている。(以下略)

梶原隆司 「壷」
 「二時間ほどかかりますが、どうします」
 火葬用ガス炉の丸く大きな点火ボタンを押したばかりの私の男は聞いた。妻と顔を見合わせ待たせてもらうことにした。ペット専用の霊園は市街地から離れた山の中腹にあった。見下ろすと田園の先に海がある。二月のなかば、外はみぞれ混じりの雨になっている。どこを見ても灰色の世界だった。(以下略)

織田こべに 「柔らかな箱」
 キッチンの出窓には、レースのカフェカーテンが揺れていた。窓硝子を通り過ぎた夕陽が、裾の桔梗模様を透かし絵のように浮いて見せる。その下でたっぷりと水気を含んだトマトが、紅く恥じらうように染まっていた。
「さあ逢ちゃん、始めるわよ」 (以下略)

菅原元之 「他人の色」
「これ、本当にオマエが描いたのか」
 頭を上げることができなかった。いきなり熱湯を頭から浴びせかけられたように身体中が燃え上がり、心臓がのた打ち回った。目の前に青白い閃光が走り、瞼の裏で火花が弾けた。
「それにしてもよう描けとるのぅ」 (以下略)

夏目 楸 「レモンスカッシュ」
 いとこの奈々美は悪魔のような女だ。
「恭子さん、こんにちは」 
 玄関のドアを開けると、新緑の風をまとって奈々美が立っていた。また来たの、と言いそうになるのを抑え、笑顔を作る。
「いらっしゃい。今日は元気そうね」  (以下略)

K・ドリー 「鴇の色」
 夜来の風雨は止んでいた。真夜中に、ゴォー、という地鳴りがした。山は割れ緑の肌が引き裂かれていた。炎精が峰の端にかかり、断続的な余震が不安をつのらせていた。崩れた土の中にパネルの一部が突出している。 (以下略)

図子英雄 「芳醇な歌集『若葉の径』 短歌にかけた赤松宜子の二十年
 待望の歌集が上梓された。歌誌「吾妹」の同人として高い評価を受けている赤松宜子が、二十年間の詠草の中から自選した芳醇にして奥行きの深い歌集『若葉の径』である。 (以下略)

郁野奈知雄 「「散骨」の儀」
 あろうことか、登山グループのベテランのNさんが先立ってしまった。定期健診で何事も無かったと安心していた矢先、冒された肝臓は手遅れだった由。五十五歳になる直前、去年の秋のことだった。 (以下略)

赤松宜子 「「やわらかな心」―吉野秀雄を回る人びと―」
読み終えて大きく息をついた。時刻は午前一時を回っている。頬のほてりは、歌人・吉野秀雄の随筆集「やわらかな心」を再読した感動の名残だろう。
 改めて、斬新な装幀の文庫本をまさぐっていると、この本を求めた一昔前の記憶が浮かび上がり、出逢いの人・Fさんが像を結んで来るのだった。(以下略)

大喜多久子 「追憶―島から山へ―」
 その日は雲ひとつなく晴れあがった小春日和であった。四阪島の社宅では海に向かった窓々が朝から開けられて、口々に「ツェッペリン」と言いながら空を見上げていた。待ちくたびれた頃、右手の空から「ふわり、ゆらり」と大きなゴム風船のような物が近づいて来た。 (以下略)

井谷五十鈴 「八十歳の詩」
 田舎の村の小学校を卒業して町の女学校へ入学してから一番嬉しかったのは、それまでお小遣いを貰うのはお正月とお祭りだけだったので、毎月学用品代を含めて貰う金一円也をとても有難かった。自分の思惑で自由に使えるささやかな打出の小槌の感であった。 (以下略)

楠目葉子 「行く春」
 きらきら眩い小楢の芽ぶき。
 青い空に水蒸気をひいた春。しきりに囀る鶯の弾んだ聲にも机に対かい、いったい私は何をしているのだろうかと思う。そんな思いを打消すかのように電話のベルが鳴る。 (以下略)

多田曄代 「住めば都」
 今年も桜の季節になった。昨年は、我が家の北にある垣生山の頂上に、突然ピンクの大きな塊が見え、屋根のついた小屋のようなものまで見えた。 (以下略)

図子英雄 「伐られた楠」
    チェーン・ソーがいきなりおれを咬んだ
    激痛が全身をねじり
    叫びも悲願もきりきざむ鋸の回転に
    おれは樹液を絡みつかせて あらがった
    痛みがきわみ
    枝葉が声をあげて 倒れ伏す   
    (以下略)

      ← 戻る    ▲ このページのトップへ    TOPページへ