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第一章 似たもの同士

 

 

 

 

3日後。手紙に指定された金曜日だ。

雲1つ無い晴天で、正に絶好と言うにふさわしい日となった。

今日の放課後。正一君が柊さんに告白をする。

そう改めて考えると、関係の無い僕までなんだか緊張してきてしまった。

柊さんは、手紙を渡した日からなんだかずっと心ここに在らずといった感じだ。

休み時間はぼーっとしているし、授業中先生に指された時も慌てて答えていた。

柊さんなりに一生懸命に考えているのだろう。

どう落ち着くのかは僕には分からないけど、2人にとって良い結果になると良いね。

 

 

 

 

 

 

昼休みにすることが見つからなかった僕は、なんとなく廊下をプラプラとしていた。

教室はある1つの理由で危ないし。

だから僕は、柊さんが設置していた仕掛けを軽く探しながら、特に目的も無く歩き回っていた。

「順斗!」

「? あ、正一君」

誰も居ない廊下を歩いている所で、後ろから誰かに呼び止められた。

その声に振り向くと、そこには正一君がいた。

偶然ではあったが、丁度良かったので、僕はこの前のことを報告することにした。

「ちゃんと渡したよ」

「おぉ! ありがとう!」

嬉しそうに笑みを浮かべながら、そう言う正一君。

僕も笑みを浮かべながら彼に返した。

「今日でしょ? 頑張ってね」

せめてもの激励。

僕がそう言うと、正一君は胸に手を当てて、深呼吸をしながらこう言った。

「そ、そうだった……。やべぇ……今更ながら凄く胸が……!」

苦しそうに胸を押さえて、苦悶の表情を浮かべる。

「はぁ……はぁ……。俺、上手く言えるかな。嫌われたらどうしよう……」

「大丈夫だよ。柊さんに限ってそれは無いって」

今まで関わってきたけど、柊さんはそんなことで人を嫌う人ではない。

それは断言出来る。

でも正一君は、僕の励ましの甲斐無く、どんどんと泥沼へとはまっていってしまった。

「噛んじまったらどうしよう。変なこと言ってしまったら……。ああ! しっかりしろ、俺っ!」

そう言って正一君は自分の頬を思いっきりはたいた。

赤くなった頬を見て、慌てて心配の声を掛ける。

「え、ちょっと大丈夫!?」

「ま、まぁなんとか……」

強く叩きすぎたのか、少しふらふらしている。

少し気負い過ぎだよ、このままじゃ本当に失敗しちゃう……。

「はぁ……ダメだな俺……。肝心な時に限ってへたれちまう。とんだチキン野郎だぜ」

「そんなことないって。正一君は凄く勇気あるよ。それに比べて僕なんか――」

ここまで言って、僕は自らの口をつぐませた。

ダメだ、今この話は明らかにおかしい。

「? どうした、順斗」

「え!? いや、なんでもないっ。なんでも、ないんだ」

「そうか。……」

正一君がずっとこちらの方を見ている。

居心地が悪くなった僕は、その間ずっと黙り込んでいた。

しばらく経った後、正一君は薄く笑みを浮かべてこう言った。

「なぁ順斗。もし、良かったらでいいんだが、お前も一緒に来てくれねぇか?」

「え!?」

正一君の言葉を聞いて、僕は驚愕すると共に絶句した。

続けて正一君が言う。

「1人じゃ心細いし、お前ならもう全部話しちまってるから何も問題ないし」

「い、いやでも……」

そういう問題じゃ――

「頼む! じゃあ、遠くから見守ってるだけっ!」

手を合わせて深く頭を下げる正一君。

少し困惑していた僕だったが、悩んだ末に僕はこう返した。

「遠くからなら、まぁ……」

「ありがとう! マジで恩に着るっ」

返事しておいて何だが、本当にこう返して良かったのだろうか……? 

まぁ、これで正一君が安心してくれるなら。

あと僕の中には、もうここまできたらいいかなという思いも出来ていたのだった。

「よし。じゃあ放課後な」

「分かった」

そう最後に確認し合って、僕らはそれぞれのクラスへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。ついにこの時がやってきた。

主に正一君と柊さんにだけど。

(さて、じゃあ行くか)

僕はいつものように荷物をまとめて、指定された場所に行こうとした。

教室の扉をくぐった所で、首根っこを誰かに掴まれる。

「え?」

後ろを振り返って見ると、そこには顔を俯かせた柊さんがいた。

表情は読み取れない。

「……一緒に来て」

「うわっ!」

そのまま引っ張られるような感じで連行される。

僕はなんとか体勢を立て直して、彼女に慌てて問いかけた。

「ちょ、ちょっとどうしたの柊さん!」

僕がそう叫ぶと、柊さんは襟から手を離し、僕と向き直ってからこう言った。

「一緒に来てっ。一人じゃ不安……」

対面したことで彼女の表情が分かった。

やや頬を紅潮させて、すがるように懇願している。

柊さんもか……。なんだか凄くデジャブ。

僕は困ったように笑顔を浮かべてから、柊さんに言葉を返した。

「分かった、行くよ。ただし、その時が来たら僕は離れるからね?」

「ん、分かった」

素直に納得してくれた柊さんを見てほっとする。

まぁこれで良いか……正一君だって来てくれって言ってたし。

知り合い同士の告白に立ち会う。

なんだか少し変な感じだったが、

僕は小さく息をついてから、柊さんと共に校舎裏の桜の木に向かった。

 

 

 

 

 

 

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