第五章 ポジティブシンキング
時間は流れて、現在夕方の6時。 グラウンドに先生の声が響き渡った。 「全員集合! ミーティングやるぞ!」 揃いのユニフォームを着た生徒が一斉に先生の所に集まる。 全員が集まった所で、早速ミーティングが開始された。
「「「「「あざっしたー!!」」」」」 最後に礼をして、今日の部活は終わった。 各々帰り支度を始める中、正一の肩をポンと叩きながら葉山が声を掛ける。 「お疲れっ」 「ああ、お疲れ」 お互いに労い合う。 そして2人は、ベンチに置いてあるバッグを手に取り校門へと歩いていった。 帰り途中に、葉山は部活中では聞けなかったことを正一に聞いた。 「で、どうだったんだよ。お前の想い人さんは判明したのか?」 「ああ、順斗のおかげでな。手紙も渡してくれるって」 「おぉ良かったじゃねぇか。やっぱ、あいつに頼んで正解だったな!」 「ちょ、痛いって」 正一と強引に肩を組む。 その時の葉山の表情は、正一と負けず劣らずの良い笑顔をしていた。 「それで、誰だったんだ? お前の言う、綺麗で美しくて、見るだけで胸が苦しくなるってな女はよ」 ニヤニヤとした笑顔を浮かべながら問いかける。 そう尋ねると、正一は少し顔を赤らめながらこう答えた。 「美影さん……。柊 美影さんっていう人だったよ」 「なん……だと……?」 「? どうかしたのか?」 正一の答えを聞いた葉山は、驚きを隠せずに驚愕の表情を浮かべた。 そしてその後、信じられないといった風に正一に詰め寄りながら、葉山はこう言った。 「お前、それ本当なのかっ? 柊って、あの包帯女だぞっ!?」 「分かってるよ。順斗に確認取ったから、間違いない」 「マジかよ……」 頭を抱える葉山。 対する正一はどうして葉山がこんな反応をしているのか、いまいち分からずにいた。 力無く葉山が続ける。 「正一。悪いことは言わん。あいつは、やめておけ」 「え、どうしてだ?」 「どうしても何もっ、あいつは変な女なんだよ! 言葉を選ばないなら中二病! まともな思考してるとは到底思えねぇ……」 「中二病? 中二病ってあの中二病のことか?」 「他に何があるんだよ」 呆れたように1つ溜め息を吐いてから、葉山はこう続けた。 「あいつの包帯が何よりの証拠だろ。あれは絶対に痛い奴の所業だ」 「いやまぁ、あれだけの大怪我ならそりゃ痛いだろうな」 「お前人の話聞いてたか!? あれは怪我じゃないのっ! キャラ設定なのっ! 分かるっ?」 「なんだって……」 ようやく理解してくれたようで胸を撫で下ろす葉山。 変な女に執心する前に留まってくれたことに安心しつつ、彼は額を流れていた汗を拭った。 こちらも心の底から安堵したような表情で、正一が返す。 「良かった。あれは怪我じゃなかったのか……」 (え、そっち……?) 思わぬ反応を返され、葉山は言葉を失った。 恋は盲目とは言うが、ここまであからさまに出るものなのか? そんな疑問が葉山の頭の中をぐるぐると回った。 なんとか疑問を取り去るようにして、 同時に常識も再認識してから、彼は改めて正一の説得にかかった。 「正一、最後にこれだけ言わせてくれ」 「?」 「あいつは、紛れも無い中二病なんだよ。だって、あいつは、あいつは……」 そうして、葉山はぽつぽつと話し始めた。恐怖で顔を青ざめさせながら。
クラス替え当初、俺は奴の一個前の席だった。 そしてある日、 俺がプリントを後ろに回した時、後ろからすげぇ理解しがたい声が聞こえたんだ。
「クックック。あと少しだ。あと少しで、呪縛陣が完成する……! これさえあれば、白羽共など恐るるに足らず。ククククク、アハハハハッ。 あっ、ありがとう」
そうして奴は、俺の手渡したプリントを受け取り、後ろへと回した。
「どうだっ? これであいつが危ない奴だって分かっただろう!?」 必死に同意を求めた葉山だったが、 その話を聞いた正一はこれまた良い笑顔を浮かべてこう言った。 「やっぱり優しい人だなぁ……。プリントを受け取る時も、感謝の気持ちを忘れないなんて」 「…………………」 「? どうした、真也。おーい」 ついに絶句してしまった葉山に、正一は手を振りながら声を掛けた。 数秒後、正気を取り戻した葉山は、力無くこう正一に返した。 「いや、頑張れよ。お前なら大丈夫だ、うん」 目には少しばかり涙が溜まっていた。
続
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