第四章 届かない言葉
色々探し回った結果、学校から少し離れた所で、鈴本は由里に追いつくことが出来た。 「由里ちゃん! 待って」 「琴音?」 飛びつくように由里に追いついた鈴本は、なるべく優しい口調で由里に問いかけた。 「どうしたの? 由里ちゃんらしくないよ。いきなり怒鳴り散らすなんて」 「あれでも抑えた方よ。……出来れば殺したいわよ。あんな奴」 「由里ちゃん!」 あまりにも口が過ぎる由里を咎める。 しかし、由里の中にある憎悪は、無くなるどころか増えていく一方だった。 (増田、優作……!) 名前を思い出すだけでも、はらわたが煮えくり返るようなような思いがする。 その気持ちを何とか抑え込み、由里は鈴本に向き直って、真剣な面持ちでこう言った。 「お願い、琴音。あいつにはこれから関わらないで。2人っきりなんてもっての他」 「え、でも……」 「お願い。出来る限りで良いから」 頼みこむようにすがる由里。 真面目な彼女がここまで頼むということは、余程のことだと鈴本は理解していた。 だがしかし、鈴本は部長として、 いやそれよりも人として由里の頼みを聞き入れることは出来なかった。 「それは、約束出来ない。やっちゃ駄目だよ、そんなこと」 「っ! ……」 由里はそれきり黙り込んでしまった。顔を俯かせて、静かに佇んでいる。 鈴本はそんな彼女に、ゆっくりと問いかけた。 「どうしたの、由里ちゃん。増田君は、一体あなたに何をしたの?」 少し間を空けて、由里は呟くようにこう返した。 「……何も、してないわよ」 「え……?」 鈴本が聞き返しても、由里はそれ以上言葉を返さなかった。 体を翻し、再び歩き始める。 歩き出す寸前、由里は一言呟いた。 「あなたは、知らなくていいわ」 「っ、由里ちゃん! 待って!」 由里は言ったと同時に歩を早めた。 その時、呼び止めようとした鈴本の声は、由里の耳に届くことはなかった。
続
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