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第一章 その心、支配するは怒りのみ

 

 

 

 

「たなかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うるせぇっつてんだろうが、この人間がぁ!」

感情のままに突っ込んできた増田に対して、拳を避けながら腹部に蹴りをかます。

倒れ込んだ増田に対して、脇腹にもう一発かましてやった。

「っ! カハッ……ゴホッゴホッ」

悶絶しているのも構わずに、田中は何度も何度も増田の腹部に蹴りを入れる。

「耳障りなんだよっ。赤子のようにぎゃあぎゃあ鳴きやがってっ」

「うるせぇよ……。てめぇだけは、絶対に許さ――」

「黙れって言ってんだろうがっ!」

「ガッ……」

いくら言っても黙らない増田に、どんどんとフラストレーションが溜まっていく。

その怒りをぶつけるように蹴り続けても、増田はこちらを睨みつけてくる。

今回も失望させられた田中をいらつかせるに、充分過ぎるほどだった。

(こいつも……所詮あいつらと一緒か)

胸糞悪い奴らの事を思い出して、怒りが絶頂に到達した所で、

田中はもう一度思いっきり増田の腹部を蹴り上げた。

「ケハッ…………」

ついに気絶した増田を一瞥し、呟くように田中は言い放った。

「ここで一生寝てろ。このクズが」

周りを一瞥してから、田中はその漆黒の翼を広げ飛び立った。

失望と怒りを心中に秘めて。

(どいつもこいつも……人間って奴はクズばっかりだ。さて、次はどこに――)

「っ!?」

翼に違和感を感じたと思ったら、地面が物凄い勢いで迫ってくる。

いや、迫っていたのは自分の方だった。

「アガッ……!」

地面に思いっきり叩きつけられた。

いきなりの出来事で何が何やら分からなかった田中は、もろに顔面から地面に着地した。

(くっそ……! なんなんだ、一体……っ!)

顔を手で押さえながら体を起こして、違和感の正体を確認してみたら……。

そこには何か白い物が絡みつくように巻きついていた。

「なんだこれはっ……。誰だこんなことをした奴は!」

異物を辿って振り向いてみると、

その先には……先程倒れたはずの増田が、日本刀を持って立っていた。

「ってめぇ! こんなことしてただで済むと思ってんのかっ?」

「…………」

増田は返事をしないまま、こちらの方へゆっくりと近寄ってきた。

ゆらゆらとおぼつかない足取りで近づいてくる。田中は再び声を荒らげた。

「おい人間! 聞いてんのか……っ!」

田中は言葉を飲み込んだ。一歩一歩近づいてくる度に増す容赦のない殺意。

それを感じ取った時、田中の体は動くことをやめた。

「…………」

「お、おい……。止まれ。……止まれよ。やめろっ! やめてくれっ!」

恐怖ですくんだ足を立たせることが出来ないままに、

這いずるように逃げようとした田中だったが、ついに増田の手が田中の体を掴んだ。

無言のままに、増田は全く躊躇せず、手に持った日本刀を振り下ろした。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああ」

 

住宅街に木霊する絶望の咆哮。勢い良く噴射する血。無残にも斬り取られた片翼。

田中は激痛と恐怖に顔を歪ませることしか出来なかった。

「たっ助けて……! 誰かっ……助けてくれぇ!!」

逃げようとしても、凄まじい力によって押さえつけられている。

増田は田中を仰向けにして、その上に馬乗りになった後、力一杯殴りつけた。

 

 

何度も、何度も。仕返しというにはあまりにやり過ぎな程、増田は田中を殴り続けた。

薄れゆく意識の中、田中が最後に見た光景は……

 

表情を一切歪ませず、ただただ無表情なまま殴り続ける増田の姿だけだった。

 

 

 

 

 

 

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