第六章 探し物
小明と別れた後、もうすっかり暗くなってしまった夜道を一人歩く。 小明のことはもう心配いらない。 彼女へのいじめはきっとすぐに無くなるはずだ。 根拠は無いけど、どうしてかそうなると確信出来た。 なんか、ひと仕事終えた気分。 元々あった仕事は手付かずのままだったけど…… (行きそびれた……!) 何にって、そりゃあ綾さんの所にですよ。 せっかく謝りに行こうと部活まで休んだのに、結局行けてない。 約束こそしてなかったから良かったものの、「今日、謝りに行く」なんて宣言していた日には、 きっと今頃俺の体は、サイコロステーキと化していたことだろう。 ……よくよく考えてみれば、宣言してから謝罪しに行くって何だ……? 意味分かんねぇ……。 「すまん、綾。明日、絶対に謝りに行く」 そう声に出しながら、心に強く誓い、俺はしばれる帰り道を一人歩いていった。
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「クッククク……。アッハッハッハ! なんだよ、あいつ! ひぃヒッひ……。腹痛ぇ……」 路地裏で腹を抱えて、笑い続ける田中。 もう小一時間、この調子で笑い続けていた。 「最高! やっぱあいつを選んで正解だったぜ。まさかここまで面白い物が見れるとは……クックッ」 まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように、目を輝かし続ける。 ひとしきり笑い終わった後、田中はポケットから二枚写真を取り出し、再びほくそ笑んだ。 「んじゃ、仕上げといきますか。願いが叶った代わりに、大事な物を失った時。 お前はどんな反応を見せてくれるんだ? ククク……今から笑いが止まらねぇなおい」 手に持った写真を、まるでゴミを扱うかの如くそこら辺に捨てる。 「せいぜい、後悔しろや! 人間如きが幸せになろうだなんて百年早いんだよ! アーッハッハッハ!」 「……あのぉ、どうかしたんですか?」 「っ!?」 慌てて後ろを振り向くと、そこには中学生くらいの背丈の女がいた。 なにやら心配そうな顔をして、その女は恐る恐るこちらの様子を伺っている。 (ちっ、俺としたことが。……適当にごまかして、さっさと逃げちまうか) 内心、物凄くイライラしながらも、作り笑いを浮かべながらそこにいる女に言葉を返す。 「あーいえ。何でもないですよ。少し探し物をしてただけですから」 「そうだったんですか。じゃあ私も手伝います!」 「っ! い、いえ。どうせそんなに大事な物でもないですから。では、私はこれで」 「えっ? あっちょっと!」 後ろから声が聞こえてくるが、構わず歩き始める。 そして一番近かった角を曲がった後、早くその場から離れるために、田中は翼を広げた。 (くそっ! 余計なお世話だっての。……興が冷めた。今日はこれで――) 飛び立ち始めて、帰ろうとした時、再び先程の女が田中に話しかけてきた。 手に、二枚の写真を持って。 「あっあの! もしかして探し物って……え? 黒い、羽?」 (っ! 見られたっ?) 「くそがっ!!」 とっさにその女を眠らせてしまった。女は崩れ落ちるようにその場に倒れ込む。 一応、そいつの記憶を消すために、田中は再び着地した。 (ったく、めんどくせぇな。……ん? こいつは、さっきあいつと居た……) 玩具と化した男の姿を思い浮かべてから、 その隣で話していた女である事に気づき、少しの間田中は手を止めた。 (……ま、関係ねぇか) その後すぐに、田中は小明の記憶を消した。騒ぎにならないように、ほんの一部だけ。 そして、田中は大きく溜め息を吐いて、頭の中でこう呟いた。 (また、送らねぇとな……) 目の前に倒れている少女を背負い、田中は真っ暗な夜空を飛んでいった。
続
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