第七章 昇天
「うーんと……ここを、こうして……」 「ねぇ、まだ出来ないの? 倉崎君」 「ちょっと待って、もう少し……。……よし! 出来た!」 次の日、早速僕は鈴本さんをモデルにして、絵を描いた。 人を描いたのは2回目だったけど、 鈴本さんが全面協力してくれたおかげで、スラスラと描く事が出来た。 「出来た!? 見せて見せて!」 「言われなくても、そのつもりだから。はい、どうぞ」 出来上がった絵を鈴本さんに手渡すと、 他にも美術室内にいた4人が、待ってました、と言わんばかりにこちらに集まってきた。 「お? 描き上がったのか?」 「……」 「参考として見てみたい」 「私達にも見せて。倉崎君」 結局、全員で見る事になった。 「おお! これは見事に鈴本の特徴を捉えてるな!」 「素晴らしい……」 「流石……」 「とても、綺麗な絵ね……」 それぞれから賛辞の言葉を貰う。改めて言われるとやっぱり恥ずかしいな……。 昨日の柊さんと西園寺さんの気持ちが分かる気がする。 「どう? 鈴本さん。うまく、描けたかな?」 この絵のモデル且つこの絵を一番見て欲しい人に聞いてみた。鈴本さんの返答は―― 「ありがとう! 倉崎君!」 「えっ!? ちょ、うわぁ!」 涙を目に浮かべながら満面の笑みで、僕向かって勢い良く抱きついてくる事だった。 あまりにも不意打ちだったので、僕は情けなくバランスを崩してしまい、 鈴本さんが僕に覆い被さるような形で、倒れ込んでしまった。 「痛て……。大丈夫だった? 鈴本さん」 僕のせいで同時に倒れ込んでしまった鈴本さんの身を案じる。 しかし鈴本さんは全然大丈夫、と言った感じでとても嬉しそうな笑顔を浮かべている。 「ありがとう……私のわがままを聞いてくれて」 「そんな、わがままだなんて。……お詫びに、なったかな?」 「うん! 凄く嬉しい!」 良かった……。失敗したらどうしようかと思ったけど、気に入ってくれたようで何よりだよ。 「それじゃあ、私からの……お礼をあげるね♪」 「え? お礼だなんて僕は何も――」
「じゅ・ん・と・くん♡」 「〜〜〜!!!???」 更に僕の耳元へと唇を近づけて、 鈴本さんは言葉を遮りながら、完全に不意打ちのお礼を囁いた。 ちなみに言っておくと、僕は女性に対して全く免疫が無い。 平静を保ってるように見えていただろうけど、実は鈴本さんが抱きついてくる度に、 心臓がバクバクと暴れまわっていた。 鈴本さんはその事を知ってか知らずか、先程更に体を密着させ、 いつもより8割増しくらいの澄んだ声で、僕の名前を囁いた。 その声はプラス艶やかさも含んでいたようで、耐性の無い僕の思考回路を完全にダウンさせた。 現在、気を失おうとしている所です。 「お、おい! 倉崎! 大丈夫か!? おい!」 「完全にやられている……復帰は困難」 「斬り刻めば、帰ってくる?」 「こねぇよ! こっちじゃなくて、土に還っちまうだろうが!」 「倉崎君、倉崎君! お願い! 目を覚まして!」 「篠原の言葉すら届いてねぇ……。鈴本、お前倉崎に何をしたんだよ……」 増田達が心配してくれている。 言葉を返そうとしても、僕の口から言葉を発する事は出来なかった。 「それは、私達だけの……秘密、よね♡」 この囁きを最後に、僕の意識は完全に天へと昇っていった。
続
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