第八章 想い
夕方。市村高校屋上。 涼しげな風と、すっかりオレンジ色に染まった空を見て、僕は先程の出来事を思い返していた。 「こんな所にいたのか……」 「増田……。それに、柊さん、西園寺さんも……」 夕日を眺めていると、後ろから増田の声が聞こえた。 振り向くと、そこには柊さん、西園寺さんも居て。 ここなら誰も来ないだろうと思ってたんだけどな……。やっぱりバレちゃうか。 「……その調子じゃ――」 「良いよ、気を遣わなくて。……ここまで手伝ってくれたんだもん。全部、話すから」 僕は、みんなに座る事を促してから、順を追って話した。
「お前って奴は……どこまで……」 増田は呆れ半分、悲しみ半分といった形の複雑な面持ちで、僕の話を聞いてくれた。 他の二人は、僕に気を遣ってくれていたのか、黙って聞いてくれていた。 「……これが、僕の正直な気持ちだよ。 僕は、篠原さんが笑ってくれているならそれで良い。 たとえその時、隣にいるのが、僕で無くても……」 「でも、それではあなたが……」 「そんな判断、不自然……」 「僕にとっては、これが一番自然な答えなんだ。 レイ君と篠原さんを引き離すなんて……もってのほかだよ」 そう。これで良かったんだ。僕は想いを伝えた。篠原さんは笑ってくれていた。 これから、レイ君との仲も進展していくだろう。全てが、丸く収まっている。 「これで、良かったんだよね?」 「……」 ? 何で黙っているのさ、増田。いつものように明るく、そうだな、って言ってよ。 ねぇ何でそんなに辛そうな顔をしてるの? そんなの増田らしくな―― 「無理しなくて良い……」 「!」 気づけば、柊さんが僕の後ろから手を回して、僕を抱きしめていた。 僕は、その暖かな手に、優しく包まれていた。 「こういう時、我慢するのは不自然……。私達も、あなたの想い、確かに受け取った……」 「……私達は知っている。あなたが優しい事、あなたが無理をしている事、 そしてあなたが、頑張っていた事を……」 「今は思いっきり泣け。泣いて泣いて泣きまくって、そんでその後の事は、また考えりゃ良い」 僕の周りには、こんなにも優しい人達がたくさん居る……。 僕の想いを受け取ってくれる人達が、こんなにもいる……。 いつのまにか僕の目から涙が零れていた。 あの日以来、枯れたように出て来なかった涙が、今では滝のようにたくさん流れ落ちた。 「うっ……。ううっ……。うわあああぁぁぁぁ!」 僕は大声で泣いた。でもこの涙は、あの日のような絶望から流れ落ちている涙ではない。 ……青春を謳歌する上で、回避出来ない失恋の悲しみ。 だけど、明日に向かうために、悲しみを教訓に置き換えて、自らの胸に刻み込むために流す。
そんな涙だった。
続
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