第一章 お見舞い
あれから一週間。あの日以来、倉崎が学校に顔を出すことは無くなった。 理由は……分からない。 単純に考えれば風邪という事になるが、一週間というのは少し長い気がする。 ……見舞いにでも行ってみるか。 「綾、美影」 「……」 「何?」 「今日、俺はバイトを休む。店長にも、そう伝えといてくれ」 「……」 「分かった」 話が早くて助かるよ。んじゃ、ちょっくら見舞いに行きましょうか。 あ、そうだ。フルーツでも持っていくか。
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放課後、倉崎家前。 よし、着いた。何度か倉崎ん家は来てるからな。スムーズに来れて良かった。 倉崎の家は、学校からさほど離れていない。こぢんまりとした一軒家だ。 見舞い品には、奮発してメロンを持ってきた。 最近は給料もちゃんと貰えてるし、親友の倉崎のためだ。これくらい安いもんよ。 俺は、早速、倉崎家のインターホンを押した。
ピンポーン。……。
応答無し。あれ? 誰も出ない? あ、そうか。確か倉崎は一人暮らしだったな。寝てたら気づかないか。 んー。さて、どうするべきか……。 普通なら諦めるのだろうが、せっかくここまで来たのだ。せめて見舞い品くらいは渡したい。 俺はしばし考え込んだ後、 とりあえず、受け口に見舞い品を置いていこう、という考えに至った。 「って、入るわけねぇよな……。 せめてバナナ程度だったら入ったんだろうが。失敗したか……ん?」 受け口に入れようと近づいてみたら、少し玄関のドアが開いている事に気づいた。 鍵は、掛かっていない。このご時世、常時開錠状態は危ないな。 「……もしかして、もう入られてるって事は、ねぇよな?」 中に人が居るにしろ居ないにしろ、鍵を開けっ放しという事は通常ではありえない。 だがもし、既に何者かに入られていたとしたら? まさか、倉崎が学校に来なかったのって! 俺の頭の中に嫌な予感がよぎった。 俺はそれ以上深く考える事はせず、急いでドアを開け、家の中に入った。 「おい! 倉崎! 居るかっ? 居るなら返事してくれ!」 中に入って呼びかけてみたが、どこからも返事は無い。 それどころか、物音一つも聞こえやしない。くそっ! 「どこだっ!」 俺は近くにある扉を片っ端から開けた。 リビング、ダイニング、台所、トイレ。どこにもいない。 となると残りは、倉崎の部屋! 俺は勢いよくドアを開けた。 「倉崎! 居るかっ? っておわっ!」 倉崎の部屋に足を踏み入れた瞬間、何かに躓きバランスを崩す。 そしてそのまま、床に倒れ込んでしまった。 「痛ってぇ……。何なんだ一体。ん? 倉崎!」 起き上がって目の前を見てみると、机に座っている倉崎の姿が見えた。 何かに没頭しているのか、こちらに気づく気配が無い。 俺は倉崎に近づき、頭に手を置いて、再度呼びかけた。 「ったく。居るなら居るで返事してくれよ。 俺はお前が死んじまったんじゃねぇかと心配で心配で」 「……」 「? おい、どうしたんだ?」 いくら呼びかけても返事どころか、反応すら無い。 ただひたすら、手だけが机の上で忙しなく動いている。 暗くて、よく分からないが……これは、何かの絵か? 「おい! 倉崎! 本当にどうしちまったんだよ!」 「……zzz」 「寝てるだけかいっ!」
続
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