第六章 念願の給料日
一週間後。あと一日で退院だ。明日から俺は学校に通う事になる。 やっとだ〜! 倉崎と遊べる〜! その時、コンコンと扉がノックされた。 「増田君、入るよ」 「あ、店長」 入ってきたのは店長だった。西園寺と柊はいない。 「明日退院だからね。ご褒美をあげようと思ったんだけど……」 「ご褒美? けど?」 なんだか歯切れが悪い……。 「お給料だよ。ほら、今日がバイト始めて丁度一ヶ月でしょ?」 「ああ、そういえば。え? くれるんですか?」 バイトをし始めた最大の理由をすっかり忘れていた。 まぁこの一ヶ月間色々な事があったしな。 でも給料やっと貰えるのか……。楽しみだ。 俺が期待の眼差しで待っていると、 店長は物凄く申し訳なさそうに頭を掻いてこう言った。 「その事なんだけど……。今、持ち合わせが無くて。 ほら遊園地での出来事と、その他諸々でね。察してくれると助かる」 その他諸々? 「え、ああ。そうでしたね……。」 富士ランドから請求された額は相当な物だったのだろう。 そりゃあんだけ大騒ぎを起こせば……ねぇ。他に怪我人が出なかっただけマシか……。 けど、はぁ。俺の新作ゲーム……。ごめんよ。発売日当日に出来なさそうだよ。 俺は地味に落ち込んだ。やっぱり手に入らないと思ったら、結構くるものがある。 そんな俺を店長は慌てて慰めた。 「そ、そんなに落ち込まないで。 君は良くやってくれたよ。だからお給料もなるべく早く何とかするから」 「……本当ですか?」 発売日に間に合うかな……。 「うん、任せといて。準備が出来たら、すぐにでも君の所に届けるよ」 笑顔で親指を立てる店長。俺は店長を信じて待つことにした。
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「なんちゅう事があってな。そりゃあもう、大変だったんだよ」 「それは気の毒だね……。傷、大丈夫なの?」 「ああ! 倉崎に会えたからな! もう痛くも痒くもねぇよ」 「どんな体してんのさ……」 こんな馬鹿なやりとりも懐かしい。 束の間の平和ってこういう事を言うんだろうなと俺はしみじみとした。 朝のHRのために担任が入ってくる。 「はい。じゃあ今日は転校生を紹介します。ほら、入ってきなさい」 我がクラスの担任は教室に入ってくるなり、転校生の話をし始めた。 ていうかこの学校、転校生多くないか? 「倉崎。どんな転校生だろうな? 今度こそ可愛い女子だったりして」 「まだ、そんな事言ってるの? あ、そろそろ入ってくるみたいだよ?」 さーて、どんな子かなぁ。希望は女の子だけど、男でもまぁ可。 転校生というとやはり期待してしまう。そこから発展するかもと思うと更に期待が高まる。 俺がわくわくしながら待っていると、 扉をガラガラと開けて転校生が入って……き、た。 「はいじゃあ、転校生を紹介する。はい、自己紹介よろしく」 「はーい。転校生の柊 美影でーす。趣味は自然研究です! これからよろしくお願いします」 「西園寺 綾。……よろしく」 「これで、自己紹介を終わる。みんな仲良くするように」 「あれ? 良かったじゃん。 増田の希望通り女の子だよ。しかも二人も……ってどうしたの? おーい」 マジか、マジでか、マジですかー! なんでだっ? 俺の見間違いか聞き間違いかっ? 何か物凄く見知った人達が指定の制服着てそこに立ってるんですけどっ? 「そうだな。じゃあ二人には……増田の所が丁度、二人分空いているな。じゃあそこに――」 「あっ! 優作! 会いたかったよー!」 「のわっ! おい! 何すんだ! 離れろ柊!」 いきなり柊が俺に抱きついてきた。普段とは違う対応に困惑する。 こいつこんな奴だったか? っていうか何か当たってるんですけどっ? 「当ててるんですぅ」 「心を読むなっ!」 「これくらい、一ヶ月一緒にいれば自然に出来るようになる」 「いきなり素に戻んなっ! そして誤解を生むような言い方は慎め! ただ、バイト先で一緒に仕事しただけだろうが!」 クラス中で噂が飛び交っている。 もちろん俺に対する物だ。くそっ! 何だってこんな目に――っ! 「お前、何でまたほうた――いや、呪縛布を……」 今、気づいたが柊は再び、右目と左半身を呪縛布で覆っている。 俺が恐る恐る柊に聞いてみると、柊は少し顔を赤らめ、俺の耳元で囁いた。 「この目は、気の許した人にしか見せたくないの……。結城と綾と、あなたは特別」 「……」 耳元でそんな事言われたら、色々とやばい……。 にしても俺らは特別か……。何か凄く嬉し――っ! 「そろそろ離れろ」 「分かってるよっ。今、離れようとしていた所だって……。 だからその物騒な物を早くしまってくれ……」 柊の囁きによって口元が緩んでいる所、西園寺に日本刀を突きつけられる。 もう何がなんだか……。 「あ、そうだ。これ、結城から」 「? 店長から? なんだろ」 混乱して状況を整理しようとした時に、柊から一通の便箋を手渡される。 封を開けてみると中には手紙が入っていた。
『増田くんへ 遅れてごめんね。これが君への給料です。 はした金より、こっちの方が君は喜ぶと思って。 二人を大事にしてあげて。 それじゃあこれからもよろしくね♪ 結城より』
「あのやろぉ――――!」 何が『よろしくね♪』だ! その他諸々ってそういう事か! そりゃ入学手続きなんかすりゃ、金なんか飛んでくだろうな! 俺の新作ゲームをどうしてくれるんだよ!
……はぁ。ま、いっか。 「?」 「どうしたの? 優作」 不思議そうな表情をして俺を見ている。 店長がよろしくって言ってるんだ。喜んで受け取ろうじゃないの。 多分そういう意味ではないと思うが。 「これからよろしくな。綾、美影」 「「!」」 金は貰えなかった。新作ゲームはもちろん買えないだろう。 でも、それ以上に大切な物が俺には出来た。 目の前で微笑む少女達。 これからみんなで自然と思い出を刻んでいけば良いんだ。 それがこの一ヶ月間のバイトで得た―― 俺たちへの給料だ。
続
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