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第五章 ご到着

 

 

 

 

その後僕達は、店先巡りをしていた3人に声を掛けて、

地図に書かれた宿を目指して歩いていった。

「ねぇねぇ、ここじゃない?」

「あ、ここか。……うん、確かに地図だとこの辺だ」

約10分後、僕達は目的地と思わしき建物に着いた。

通りから外れて、山並みに入ろうかという所に建っているそれは、

情緒溢れる旅館のように見えた。

随分と自然溢れる所にあるもんなんだなぁ。

「ごめんくださーい」

「はーい、只今」

引き戸を開けながら控えめに呼びかけると、返事が返ってきた。

中から出てきたのは優しそうな笑顔を浮かべた女将だった。

「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」

「あ、はい。多分友人が先に来ていると思うのですが」

「あっ、増田様ですか?」

「そうです」

「はい、既にご到着なさっております。どうぞ、こちらへ」

女将の案内で奥へと入っていく僕達。

その途中に、鈴本さんが口を近づけてきて、耳打ちをするようにこう言った。

「ちょっと古い所だけど、なかなか良さそうな所だね」

僕の第一印象と寸分違わず同じだけど、

そういうことはあんまり言わない方がいいと思うよ……。

歴史があるって言いなさい。

「こちらとなっております。では、ごゆっくり」

そう言って、女将は丁寧にお辞儀をしてから戻っていった。

示された部屋に入っていくと、そこには増田の姿があった。

「おっす。遅かったな」

「ごめんごめん。ちょっと迷っちゃって」

「まぁそうか。ここはあまり目立たない所だからなぁ」

そう言う増田は、随分とくつろいでいた。

床が畳だということもあってか、足を伸ばしてゆったりと座っている。

机を挟んで反対側には、静かに座っている西園寺さんの姿があった。

荷物を邪魔にならない所に置いて、僕達も二人と同じように腰を落ち着ける。

「う〜ん、良い所ねぇ」

「ほんと、静かで良い雰囲気だわ」

「やっぱり、旅館は畳だよねぇ」

ゆっくりとした空間に、ゆっくりとした会話。

修学旅行というよりは慰安旅行に来ている感じ。

誰の目も無いって、こういう事か。いいね。

「飯の時間は7時だってよ。それまでは自由行動だ」

はーい、とみんなで返事をする。

なんだかんだで増田が先生っぽくなっている所が、僕には少し微笑ましく思えた。

「じゃあ私はちょっと旅館の中を見てくるわ」

「私も行く〜」

「ええ、行きましょ」

柊さんと鈴本さんは探検に出かけていった。僕も後で時間あったら回ってみようかな?

「よっしゃ、トランプしようぜ。大富豪な」

「いや、神経衰弱やろうよ」

やるつもりなのか。着いたばかりなのに元気だね。

「ほら、お前らもやるだろ? 五人居るんだから大富豪だと都合がいいんだよ」

大富豪、富豪、平民、貧民、大貧民だっけ? 確かに都合が良いけど。

「七並べ」

「あ、七並べいいね」

「おー、じゃあやるか」

西園寺さんの鶴の一声で、トランプは七並べに決まった。

さて、それじゃあやりましょうか。

 

 

 

 

 

 

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