IRON POT
○警察・廊下
『FBI』云々の文字の入ったジャンパーを着たテルオ、カニを手に入ってくる。
どこかで見たような顔の制服警官が案内している。
テルオ いやあ、FBIって言ったら入れるもんなんですね。
警官 だって、FBIでしょ。
テルオ ええ。あの、誰でもFBIって言ったら入れるんですか。
警官 そりゃあ、FBIですからね。
テルオ はあ。
警官 FBIじゃないのに、FBIって言う人いないでしょ。
テルオ …はい。
警官 (部屋を示して)ここです。
テルオ あ、そうですか。どうも。
警官 あ、カニは置いてってください。
テルオ え、なんで?
警官 カニはFBIじゃないでしょ。
テルオ …はあ。まあ、ね。(カニを警官に渡して)ここ、長いんですか。
警官 あ、今度、刑事になります。
テルオ あ、そうなんですか。…お名前は?
警官 たいぞうです。
テルオ あ、そう…。それじゃどうも。
警官、カニを手に、テルオを振り返りつつ去る。
テルオ、『霊安室』の札のある部屋のドアを、意を決して開ける。
○霊安室
ドアを開けてこわごわ入ってくるテルオ。
テルオ おじゃましまーす。ってね。誰も返事しないよねーみんな死んでるからねー。
白い布をかけられたベッドがたくさん並んでいる。おそるおそる、その間を歩くテルオ。
テルオ なに、一人でしゃべってんだろうねー。きっと怖いからだろうねー。(ひとつのベッドの前で)これかな?
テルオ、白い布をそーっと開ける。と、横たわっていた人物がむっくり起き上がる。泉である。
テルオ わ!
泉 ちゃんとやっとるか。
テルオ い、いつの間に?
泉 これが、わしのイリュージョンや。
テルオ ?
泉 まぁ言うなれば、イズミ・イリュージョンやな。あるいは、マサル・イリュージョン。
テルオ …そんなことどうだっていいんですよ。ちょっ…何がイリュージョンですか。
ぶちぶち言いながら、別のベッドの布をめくるテルオ。
テルオ これかな…よいしょ!
ベッドに寝ていたのは、またしても泉。
泉 2(ツー)。
テルオ も、いい加減にしてくださいよ。遊びに来たの?ねえ。見つけましょうよちゃんと。ちゃんとやってください。
泉 はい、はい。
テルオ ほら、めくって。時間ないんだから。
テルオの指示で、泉が隣りのベッドの布をめくる。
泉 おはようございます。
警官 おはようございます。
ベッドに寝ていた制服警官が起き上がる。
他の全部のベッドからも、制服警官が一斉に起き上がってくる。
警官達 おはようございます!
テルオ、慌てて泉をひっぱって部屋の隅に逃げる。
警官達、ベッドを下りて二人に迫ってくる。が、全員寝起きでズボンをちゃんとはいておらず、ただベルトをカチャカチャいわせて立っている。
テルオ なに、ここ、仮眠室!?
泉 カミングスーン。
テルオ え?
泉 カミングスーン。
テルオ 二回言わなくていいですよ。
泉 あんた笑わんから、聞こえんかったんかと思って。
テルオ いや聞こえてたけど、面白くねえんだよこれが!
泉 …(悔しそう)
テルオ ちょっと…大ピンチ!どうしようこれ?
テルオの携帯が鳴る。
テルオ あれ…(あせりながら電話に出る)はい、もしもし?
○窓の外(と、霊安室仮眠室、壁を境にして同時に画面に見えている)
赤いワンピースと仕掛けの箱を手に電話をかけているレイコ。
レイコ ピンチの後にチャンスありよ!
テルオ レイコ?
レイコ いいから聞いて。
テルオ なに?
レイコ あなたの後ろに、窓があるでしょ。
テルオ ああ、これね。うん。
レイコ 飛びこんで。
テルオ なんで?
レイコ いいから、あたしを信じて。
電話をかけながらレイコ、仕掛けを窓の外にセットしている。
テルオ そんなこと言われても…
部屋の中の警官達、身支度を整え終えて、警棒を手にテルオ達に迫ってきている。
テルオ わ!…わ、わかった。
テルオ、電話をジャンパーの内側に入れ、生地の裏から角をつくって警官達に見せる。
テルオ おら、拳銃だーおら!拳銃あるぞ!撃つぞ!撃つぞー!
警官達、あわてて後ろに下がっていく。その隙をついてテルオ、窓に飛び込む。
ガラスを破って外に飛び出すと、イリュージョンの仕掛けをくぐり抜け、赤いワンピースにカツラの衣装に早変わりしたテルオが現れる。
警官達 逃げたぞ!
通用口?から外に駆け出してくる警官達。その横をテルオとレイコ、何食わぬ様子で歩く。
気づかず行ってしまう警官達。
テルオ (カツラだけ取って)助かった〜!
泉 (部屋の中で)わしはええんか!
テルオ え?
戻ってくる警官達。
テルオ、あわててまた部屋のほうに戻り、泉をひっぱって逃げる。追う警官達。
○廊下
テルオ (赤い衣装をぬぎつつ)あっちあっち!
廊下に、ストレッチャー台に載せて白木の棺が置かれている。
テルオと泉、ストレッチャーの下にもぐりこむ。
その横を走り去っていく警官達。
テルオ ふー…
泉 イズミちゃん、危機一髪やったわ。
テルオ よかったあ…
別の警官がふたり、台の横にやってくる。あわてて口をつぐむテルオ。
と、警官、その台をするする押していく。
テルオ ん、何?
テルオ達に気づかないまま、台を運んでいく警官ふたり。
テルオ 何、あれ?どこ行くの?
泉 知らないよ。
テルオ イズミちゃん、どこ行くの?
泉 知らないよ。
テルオ イズミちゃん?
○外の道路
霊柩車が止まっている。開いている後ろの扉の前に運んできた台を置いて、警官は運転席のほうに行ってしまう。
棺の上にひょっこり顔を出す、テルオと泉。
テルオ ひっ!
泉 おい、こりゃお前、棺桶ないか。
テルオ ええ。
泉 おい。(開けろとアゴで合図)
テルオ あ、開けんの?やだなあ…
こわごわ、棺の小窓を開けるテルオ。猫田の顔が見える。
テルオ わ!
泉 猫田や!
テルオ ええ…ん?
車がバックしてくる音。見ると、レイコが軽トラックを運転してきている。
レイコ テルくん、早く!
テルオ う、はいはい。
テルオと泉、棺を前後からよいしょと抱え上げ、トラックの荷台に移動する。テルオが前、泉が後。
棺のフタを開け、猫田の死体をごろっと転がして荷台に移す。
テルオ うわ…(怖がってる)
泉、早く戻せとテルオに合図。
テルオ はい、はい。(猫田に)すいませんね、すいませんね…
テルオと泉、棺をもとの台のほうに戻す。今度は泉が前。台が狭く、泉はしまいに棺の内側に立つ。フタを持ってきたテルオも内側に立つと、
泉 お前が入ったら誰がフタすんねん。
テルオ あ…あれ…
とか、カラの棺の中でおろおろしていると、
レイコ あ、戻ってきた!
レイコ、猫田の死体だけ載せてトラックで行ってしまう。運転席のほうを見やってテルオも慌てだす。
テルオ あー!
泉 ええからお前、入ろ。
テルオ え、入んの?
テルオと泉、棺の中に入り、中からフタをのっけて隠れる。間一髪で警官二人が戻ってくる。棺を運ぼうとして、フタがずれていることに気づく警官。
警官A あれ。お前、フタずらした?
警官B いいえ?
警官A もう、釘打っちゃえ。
警官、棺のフタに釘を打ちはじめる。
○棺の中
狭い中で密着状態のテルオと泉。釘を打つ音が聞こえてくる。
テルオ …どうします?
泉 な?
警官たちの話す声も聞こえてくる。
警官(声) これどうする?
警官(声) 無縁仏だから、火葬場持ってくんだよ。
テルオ …どうします?
泉 な?
ガクンと棺が揺れ動く。
テルオ あ…
泉 動いた!
○道路
棺を納め、霊柩車の後ろの扉が閉められる。そして走り出す霊柩車。
○棺の中
テルオ 火葬場って言いましたよね。
泉 言うた。
テルオ (鼻をうごめかし)泉さん、今朝なに食いました。
泉 スタミナ餃子。
間。
テルオ (棺の内壁を叩き)誰か〜!!
○道路
走り去る霊柩車。
テルオ(声)誰か〜!!
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