IRON POT
○棺の中
テルオ (内壁を叩き続けながら)誰か〜!出してくれ〜!!
泉 静かにせえや。
テルオ クサっ…しゃべんないでくださいよ、餃子食ったんでしょ!
泉 ちゃうちゃう。スタミナ餃子。
テルオ だからしゃべんなって。このままだったらね俺たちね、焼かれちゃいますよ!?
棺の外観。テルオが中を叩いている音が小さく聞こえる。
テルオ …この状況でね、一番やっちゃいけないことがあるんですよ。それはね…
泉 ちょっと待ってや。
テルオ え?
プゥ〜という音。
テルオ ぅあ、だから、それが…あっ、あ〜くっさ〜…(意識を失いかける)
泉 (スッキリした顔)
テルオ …(はっと気を取り直して)誰か〜〜!
再び、激しく棺の中を叩き始めるテルオ。
○霊柩車の運転席
テルオ(声) 誰か〜!
カーラジオのスイッチを入れる手。運転中の警官、テルオに気づいていない。ラジオからモーニング娘。の『LOVEマシーン』が流れてくる。楽しそうに首を左右に振っている警官二人。
警官 (口ずさんでる)明るい未来に〜就職希望だわ〜ウォウウォウオ〜♪
○棺の中
テルオ うぉううぉうお〜!!
○国会議事堂前を走りすぎる霊柩車
ラジオの音 日本の未来は〜
テルオ(声) うぉううぉううぉううぉう〜!
○外務省前を走りすぎる霊柩車
ラジオの音 世界がうらやむ〜イェイイェイイェイイェイ〜♪
○棺の中
泉 わしらの未来は〜うぉううぉううぉううぉうお〜
テルオ ちょっと…のんきに歌ってないで早くなんとかしてくださいよ!もう!…うんっ!
テルオ、狙いをつけて棺を中から思いっ切り叩く。棺がちょっと動く。
テルオ ちょっと、協力してくださいよ。
泉 よっしゃ。
テルオ せーの!
二人いっしょに棺の中に体当たりする。と、車の後部扉を破って棺が外に飛び出す。
扉を開けたまま霊柩車は走り去ってゆく。路上に残される棺。
○棺の中
テルオ あ…(痛そう)
泉 (こっちも痛そう)腰、打った。
テルオ はい。
泉 あと、屁こいた。
テルオ え?あ…あ〜くっさ〜、もう…
泉 換気したらええがな。
テルオ ああ…もぉ〜。
テルオ、狭い中でもぞもぞ動いて小窓を開け、顔を外に出す。
○埠頭
テルオが顔を出すと、そこはトラックや重機が並ぶ埠頭だった。
テルオ ぷわっ!ぷはっ…あ!
落ちている棺のほうめがけて、ショベルカーが接近してきている。
テルオ あ゛〜!!
テルオ、慌てて中に引っ込んで窓を閉める。
ショベルカーが大きな車輪で棺をまたいで通過していく。
○棺の中
ショベルカーの去った振動で?横方向に転がり始めている棺。仰天する二人。
テルオ ああ〜!
泉 !?
テルオ やばい、やばいやばいやばい!
○埠頭
ごろんごろん回転している棺。
テルオ(声) やばいやばいやばい〜!
○棺の中
回転している二人。
テルオ やばいやばいやばい〜!
○埠頭
海のほうに向かい、転がり続ける棺。
テルオ(声) やばいやばいやばい…あ。バイヤに聞こえませんか?
じゃぼんと海に飛び込む棺。
○棺の中
泉 …
テルオ …
○埠頭
海面にぷかぷか浮いている棺。
○コインランドリー
乾燥機の前で並んで体育座りしているテルオと泉。服を乾かしているらしい。
泉、かわいいレースのドレスに網タイツという姿。その辺にあったものを勝手に着ているらしい。
泉 なんでこんな格好せなあかん。
テルオ その割にはぜんぶ着込んでんじゃないですか。
そう言うテルオも、上は腰に巻く程度だが足には赤い網タイツをしっかり履いている。
泉 まあな。
テルオ (洗濯物の中のブラジャーを手に取りつつ)でもこれ、どんな娘が着てるんでしょうね。(ちょっと楽しそう)
泉 うーん…わからん。
テルオ あ。
カラの洗濯カゴを下げた白髪頭の中年男が立っている。
テルオ …
泉 …
男、じっと立ったまま二人を見ている。
テルオ …(泉に)脱いで。
泉 …
テルオ ね、脱いで。脱いだほうが。
泉 恥ずかしい。
テルオ …(中年男にぺこっとしてみたり)
○テルオの部屋
猫田の死体を前に考え込む、テルオ、泉、レイコ。
レイコ どうしよう。やっぱり、おなか切るしかないのかな。
泉 いや。あのな、お尻の穴にな、ホースを突っ込むのや。
テルオ はあ。(すでに呆れてる)
泉 な。そしたら、息を吹っかけたら、出てくるかもわからんぞ。
テルオ ほお。じゃ、やんなさいよ。
泉 わし?
テルオ うん。
泉 …いや、わしはあかんわ。
テルオ なんでよ。
泉 いやいや。
レイコ ね、笑わせたらこう、プッと吹き出したりするんじゃないかな。
テルオ だから死んでるっつうんだよ。
レイコ コチョコチョ…(と猫田をくすぐろうとしてる)
テルオ 死んでるっつうんだよ。
泉 なにもせんよりマシやないか。笑かせ。
テルオ なんで。
泉 さあ言え。死体と遊ぼうドンヒャララ!
テルオ なにそれ?
泉 第一ドンヒャララはお前から。
テルオ なにドンヒャララって。
泉 はい、ドンヒャララ〜!
猫田の死体の口が、ダイヤをプッと吹き出す。
レイコ あ!やった、出たわよ!
泉 な。
テルオ 出んのかよこれで!出んの本当に!?
泉 ほな。
泉、レイコの手からダイヤを受け取り、とっとと部屋を出ていく。
テルオ あ、ちょっと。ちょっと、どこ行くの?この人は?
泉 好きにしなさい。
テルオ いや…。勝手だな〜もう。ちょっと…
横たわる死体を前に溜息つく二人。
テルオ どうしよう…?
○ゴミ置き場・夜
猫田の死体が『おとしもの』と朱書したダンボール箱に入れられ放置されている。
ゴミを出しに来た中年女が見つけて驚く。
女 (猫田に話しかける)もし?
と、箱の横から銃を持つ手が飛び出し、女を撃ち殺す。
物陰から見ていたテルオとレイコ、驚く。
テルオ 死んでるのに、死んでるのに!ありゃ人間じゃねえ、人間じゃねえ…
そそくさと去る二人。
ワォーンと犬の遠吠えが聞こえる。
テロップ 『弟が妹になるまで 残り \2825000』
『END』
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