IRON POT
○線路
必死に走って逃げるテルオ。追う猫田。
テルオ 殺される〜!
猫田 殺す!
以下、えんえん走っている二人。
テルオ あの、すこし休憩しちゃダメですかね?
猫田 お前の速度が、15キロ以下になったら殺す。
テルオ ええ〜?
猫田 昨日、映画の『スピード』見てて思いついたんだ。
テルオ それ、1ですか、2ですか?
猫田 …今ので、20キロ以下で殺すことになりました!
テルオ え〜うそ〜っ!
○ビールケースが山と積まれて巨大迷路のようになっている場所
ビールケースの壁の脇を走り続ける二人。
テルオ だいたい、なんで、話しかけるだけで撃つんですか?
猫田 それには訳がある。
テルオ え?
猫田 舞台は、俺が小学生の時にさかのぼる。
テルオ なに?なに?
○同じ場所
二人と同じ格好の小学生が二人、同じシチュエーションで走っている。
小学生の猫田 待て〜!
小学生のテルオ 殺される〜!殺される〜!
○同じ場所
猫田 というわけだ。
テルオ …さかのぼっただけじゃないですか!
猫田 じゃ、もっとさかのぼろう。
テルオ え?
猫田 俺が生まれたばかりの頃だ。
○『昭和35年』
公園のような場所にあるベビーカーの中に向かって、通りがかった女が話しかける。
女 まあ、かわいい子ね〜。
ベビーカーの中から銃が出て、女を撃ち殺す。
その背景を、現在のテルオと猫田が走りすぎながら、
テルオ 生まれつきですか。
猫田 その通り。
○ビールケースのある場所
テルオ 聞かなきゃよかった!
猫田 殺す!
と走っている二人の横を、中年女が歩き過ぎる。
女、すれ違いざま猫田を呼び止める。
女 リュウジ!
戻ってくる猫田。
猫田 かあちゃん…!
女 ごめんね、お前を置き去りにして。
猫田 探したんだよ、かあちゃん。…そうだ、俺、ヤクザやめるから、一緒に暮らそう。
女 それは無理よ。
猫田 ええ?
女 なぜなら私は、お前のお母さんではなくて…
言いながら女、自分の顔の下に手をかける。べろっとマスクが外れると、中からテルオの顔が現れる。
テルオ 俺だからだ。
間。
テルオ なんだよこれ、ワケわかんないよ。
猫田 …殺す!
テルオ あ゛〜!
再び走り出す二人。
○『6時間後』(というト書きにあわせてカップ麺の中身が段々のびてあふれ出すという一連の映像)
○ビールケースのある場所・夜
まだ走ってる二人。
テルオ、積まれたビールケースで狭い一本道になっているところに入り込む。
テルオ あ!
その先は行き止まりになっていた。
テルオ あ〜!
テルオの背後、猫田が銃をかまえて入ってくる。
猫田 仲良きことは美しき哉。袋小路実篤。
テルオ …それ、面白くないです。
若頭 なっはっはっはっ!
テルオ ?
若頭 そこまでや。
袋小路の外、猫田の背後に、若頭が銃をかまえて立っていた。
猫田 若頭…
若頭 おとなしゅう、ダイヤモンド返してんか。
猫田、若頭に背を向けたまま、取り出したダイヤを口に入れる。
テルオ あ!
若頭 みっつ数えるうちに返したってんか。ひとーつ!
猫田、ダイヤを飲み込む。
若頭、いきなり銃を撃つ。倒れる猫田。
テルオ あー!?あれ!?ちょっとねえ、あんた、ちゃんと三つまで数えなさいよ!これ、ダイヤ飲んじゃったのよ?
若頭 あ、そう?
テルオ うん。
若頭 それならハサミでチョキチョキしなさい。ほら。(持っていたカニを渡す)
テルオ なにこれ?カニ渡してどうすんのよあんた?
若頭 いや、だから…カンニンしてね。
テルオ え?なに言ってんの?あんた誰よ?
若頭 ウーピー・ゴールドバーグです。
テルオ あ?
言うだけ言って去っていく若頭。背中に『ウーピーゴールドバーグでした』と張り紙がついている。
テルオ なんだあれ?
泉(声) キューピーコーワゴールドみたいやな。
反対側から、ビールケースの壁を両手両足で伝って泉が降りてくる。
テルオ お?お、泉さん?あら、どっから来たの。
泉 いやいや。あれがな、うちのかしらや。
テルオ あ?かしら?…いやそんなことよりね、この人、ダイヤ飲んじゃったのよ。
泉 あ、ほうか。
テルオ うん。
泉 しゃあないな。
とか言ってる二人がいる場所の外を、「あっちだ!」などと叫びながら警官達が走りすぎる。
泉 …おい、こりゃ、やばいな。
テルオ あら?
泉 逃げよか。
テルオ え、え、逃げんの?ちょっと、ダイヤは?
泉 あ、あとで。(と言いながらテルオを連れて去る)
テルオ あとでってどうやって。ちょっと…これ、カニ、どうしましょう。
テルオと泉、猫田の死体を残して去る。
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