IRON POT
#2 「話しかけると殺すヤクザに話しかけてボク死んじゃうかもの巻」


テルオ (内村光良)
テルオの弟 (名倉潤)
レイコ (奥貫薫)
編集者 (宮藤官九郎)
泉 (志賀勝)
組員 (柴崎蛾王)
若頭 (白木みのる)
猫田 (白竜)
警官 (原田泰造)
警官A (与座嘉秋)
警官B (杉崎政宏)


○坂道

 弟の入っている『業務用電気釜』の箱を乗せた台車を押し、坂道を上ってくるテルオ。
 途中、ナイスバディの若い女とすれ違う。
 箱の中の弟、半泣きの声で口ずさんでいる。

テロップ 『弟は女の体になるまで箱から出ないと言い張っているのであった。』
弟 ♪ボールがーうなーるとー、むねがはずーむわー。
テロップ 『手術には300万円かかるのだった。』
弟 ♪レシーブ、トス、スパイク、ワンツーワンツーアタック。…だって女の子だもん。涙が出ちゃう。
テルオ だから泣くなって。
弟 だってあんな身体してんだもんあいつ。
テルオ しょうがないだろ、女なんだから。
弟 いつ出来んだよ300万。兄ちゃん、年収いくら?
テルオ 90万。
弟 ふん。(鼻で笑う)
テルオ …東京、帰るわ。

 台車の向きを、今来た坂のほうに向けるテルオ。

弟 大丈夫。俺、負けないから。あんな女、ブッ飛ばしてやるから。
テルオ 行ってこい。

 テルオが手を離すと、台車は下り坂を弟を乗せて転がってゆく。

弟 ♪なみだもー汗もー、若いハートでー、青空にとおくー叫びたいー。

 途中から上りになった坂を、女が去っていった方向になおも進んでいく台車。

弟(声) おりゃあ!
女(声) あ゛ー!

 ばきっという音に続いて、倒れた女が坂道をごろんごろん転がってくるのが見える。

女 あ〜〜〜…(下まで転がり落ちて動かなくなる)
テルオ ……。


○タイトル―IRON POT


○テルオのマンガの画面

男 『俺は300万円のダイヤを飲み込んでる』
女 『それを取り出せばいいのね、アイアンポット』
男 『それは無理だからステーキを食べに行こう』
女 『ステキー!』


○泉の事務所

泉 なめとんのか、このマンガは!

 泉、雑誌をまっぷたつに破ってぶん投げる。食事中の組員、雑誌ぶつけられてごはん吹き出してる。

組員 兄貴〜!
泉 どけ!

 泉、続けて日本刀をぬき、包帯を巻いてあった剥製の鹿の角をたたっ斬る。

組員 (鹿に駆け寄り)痛くないよぉ〜。

 部屋の電話が鳴る。泉、電話に出る。

泉 誰や?


○若頭の部屋

 机の上に仁王立ちしている若頭、電話をかけている。

若頭 ウーピー・ゴールドバーグです。


○泉の事務所(以下、適当にカットバック)

泉 なにぃ?
若頭 殺すぞ!
泉 あ、かしら、すんまへん、失礼しました。
若頭 ちょっと面倒なことが起こってしもてな。
泉 と申しますと。
若頭 親分のダイヤを、猫田がネコババしよったんや。笑うとこやないぞ。
泉 いや、何も笑てませんがな。
若頭 なーっはっはっは!(笑)
泉 …あの、猫田いいましたらあの、話しかけてきた奴は全員殺すという、殺人マシーンの猫田でっか。
若頭 うむ。お前もな、熱海の懇親会のこと、知っとるやろ。


○宴会場

 『歓迎 全日本にんきょう道御一行様』と幕がかかっているステージで、浴衣に丹前姿の猫田、コンパニオンらしい若い女とカラオケを歌っている。

猫田 ♪3年目の浮気ぐらい大目にみろよ〜
女 ♪ひらきなおるその態度が、気に入らないのよ〜。

 と歌って、隣りの猫田のほうを向いた女を、いきなり拳銃をぬいて撃ち殺す猫田。
 騒然となる宴会場。逃げまどうヤクザ達。


○泉の事務所

若頭 ダイヤを返してきてくれ、言うてきてくれ。
泉 いや、わしはかなわん…殺されるのはかなわんですわ。
若頭 ガチャン。ぷー・ぷー・ぷー。(と口で言う)
泉 …切りやがった。なめとんか、あのボケほんまに。
若頭 ボケ、とは誰にぬかしてんねん!
泉 あ、すいません、すぐ行きます。はい。

 泉、電話を切る。横で組員、不安そうに見ている。

泉 恐ろしい人や…。けどお前、殺されてもええ奴なんて…。

 雑誌を手にとる泉。

泉 あ。また、あいつか。

 電話をかけ始める泉。


○テルオの部屋

 机に向かっているテルオと、テーブルで雑誌を見ているレイコ。
 レイコの前の電話が鳴る。すぐに、留守番電話に切り替わる。
 テルオ、レイコに出るなと目で合図。

テープの声 『ただいま出かけております。ピーッという音のあとに、お名前とご用件をお話しください』
編集者(声) ネッカチーフ出版のクドウです。

 テルオ、電話をとる。

テルオ もしもし。


○マンガ雑誌の編集部

編集者 なに、居留守?なんで出ないの。


○テルオの部屋

テルオ あ、それがねあの、最近ヘンな奴につきまとわれててね、それであの、留守電にしてんですよ。


○編集部

編集者 あー、そうなの。あ、ちょっと待ってね。

 編集者、テルオと話している受話器はそのままに、もう一方の手の携帯電話に向かって、

編集者 今ならいますよ。


○テルオの部屋

テルオ あ、誰と話してるんですか?
編集者 イズミちゃん。
テルオ イズミちゃん?

 部屋のドアが開いて、おかっぱのカツラをかぶった泉、両手にバケツを下げて登場。

泉 イズミちゃんです。
テルオ なんだ、なんだあんた!?なんだよあんたそれ!?
泉 あんたのマンガ、おもろないのよ!

 泉、バケツの中にぎっしり入っている貝殻を、テルオとレイコの上にぶちまける。

テルオ うわー!?
レイコ きゃー!?
テルオ なんだよこれ?なんだよ?
泉 昨日食ったシジミや。

 泉、別のバケツを外からまた取り出し、再度貝殻をぶちまける。悲鳴をあげるテルオとレイコ。

テルオ いってえーなあー!
泉 あんたの家を大森貝塚にして、もういっぺん発見したる。
テルオ なんだって?
泉 わしはモースじゃ。モースって言え。
テルオ モ、モースさん。
泉 あほ。(と言って外に出ていく)
テルオ どこ行くの?

 泉、また別のバケツを取り出し、三たび貝殻をぶちまける。

テルオ なによ、またー!?ちょっとー!いてえって!
泉 わしはイズミじゃ。
レイコ …あんたね、怒るなら、考えまとめてからにしなさいよ!
テルオ そうだ!
泉 それもそうやな。
テルオ なんだよ。
泉 じつは、おりいってな、このイズミちゃんの相談にのってもらいたいのよ。
テルオ その前にカツラ取れカツラ。


○『話しかけると殺すヤクザ説明中』(というテロップの下に、カップ麺の中身が減っていく映像。容器が空になると底に『10分後』の文字)


○テルオの部屋

テロップ 『「ダイヤ返せ」って言え!!』
泉 ま、というわけや。
テルオ つまり死ねってことだろ、てめえこの野郎、ヤクザだかなんだか知んねえが、いい加減にしろこの野郎!!
泉 (無言)
テルオ …って、言ってみたいですよね。
泉 ようわかるわ。ほな、引き受けてくれるな。
テルオ でも、俺、死んじゃったら、マンガの連載がね…
泉 うん、それは心配ない。
テルオ へ?
泉 わしが引き継いだる。
テルオ ええ?なんで?
泉 おもろいで。わしの描くマンガ。
テルオ え?
泉 じつはな、連載しとんのよ。
テルオ どこでやってんですか!?


○公衆トイレ

テルオ じゃ、見てきます。

 男子用の個室に入るテルオ。扉の外に泉とレイコ。

テルオ(声) あっはっはっは…はっはっは…

 笑いながら、個室からテルオ出てくる。

テルオ (笑ってる)
泉 な。これで、心おきなく行けるやろ。
テルオ …はい?
泉 はい、10万円。(と現金を出す)
テルオ ええー!?


○原っぱ(テルオのイメージ)

箱の中の弟 兄ちゃーん!


○公衆トイレ

テルオ やります。
レイコ え!?


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