IRON POT


○組長の家

テルオ すっごいの来た…!
姐さん 宝石、買ってほしいんでしょ。
テルオ ほ、宝石…はい。
姐さん (ケースから一つ取り出して)これ、いくら?
テルオ それは…それは、えーっと…

 テルオ、自分のマンガの場面を思い出す。
 『どうしても300万必要なんだ』『じゃあ私があげるわ』『ありがとう…』(画とともに、以上のセリフがテルオと姐さんの声で流れる)

テルオ …いやいやいやいや。(それはマズイだろ、と首をふる)
姐さん いただくわ。
テルオ え?
姐さん 貴方が、ついてくるなら。
テルオ え?いや、それは…それは、ちょっと…

 テルオの携帯が鳴る。

テルオ あ、すみません電話です。ごめんなさい。(電話に出る)はい。


○ホテルの部屋

レイコ ねえテルちゃん、私のことどう思ってる?


○組長の家

テルオ なんだよ急に。
レイコ ねえ、どう思ってる?
テルオ 好きだよ。(と、姐さんに向かって言ってしまう)…!
姐さん うれしい!(テルオに抱きつく)
テルオ いやっ、そ、そうじゃなくて…
レイコ 嫌いだよね。
テルオ なんでだよ?
姐さん だってこんなおばちゃんイヤじゃない?
レイコ 私ってほんとイヤな女でしょ。
テルオ イヤじゃないよ。(と、姐さんに向かって言ってしまう)…!
姐さん うれしい〜!
テルオ ね、それってさ、今、話さないといけない話かな?
レイコ 今じゃなくちゃダメなの。…やっぱり私、あなたに愛される資格なんてない。
テルオ ちょっ、ちょっと…
レイコ ちょっと、何?
テルオ 愛してる。(と、姐さんに向かって言ってしまう)…!
姐さん あたしも〜!
テルオ あ゛〜!


○ホテルの部屋

レイコ ええ?あん、もう、今さらそんなこと言われても。

 と電話中のレイコを、シャワーを終えた山崎が見ている。


○組長の家

テルオ もしもし、だから君のほうだよ。ポリスじゃないほう!あ、ちょっと待って切らないで!…あ、切れた。


○ホテルの部屋

 山崎、レイコを後ろから抱き寄せる。


○組長の家

姐さん 弁護士さんとの電話、終わった?
テルオ いや、まだです。まだですよ。(携帯が鳴る)あっほら電話、ちょっと電話。(電話に出る)だから、愛してるって!


○泉の車の中

泉 (テルオに電話で)そりゃあ結構やないか。


○組長の家

テルオ あいやー…
泉 で、そっちはどうや?
テルオ …やばいっす。
泉 姐さんは。
テルオ ポリスになってます。
泉 そうか。そらもう大丈夫や。
テルオ え、それどういうことですか?ちょっと、あ、切らないで…切れた。
姐さん(声) 雨だれ小僧さん〜♪

 ハナ歌を歌いつつ、姐さんが隣りの部屋でシャワーを浴びている様子がドアにほんのり透けて見える。

テルオ …ここは、ジュラシック・パークか?


○泉の車の中

泉 (誰かに電話中)ああ、ワシや。あのな、組長にな、奥さんが早う帰ってきてくれと言うとると、そう伝えといてくれ。


○ホテルの部屋

 バスルームに行こうとするレイコを、山崎が引き止めている。

レイコ ダメ、私もシャワー!3日もお風呂に入ってないの。
山崎 4日じゃないからいいじゃないか。今すぐ、君を愛したい。
レイコ …え、アインシュタイン?…博士!実験の結果はどうなりました?アインシュタイン博士!

 とか言いつつ、レイコ、バスルームに逃げ込む。


○組長の家

 なぜか壁に貼ってあるアインシュタインの肖像の横で考え中のテルオ。姐さん、まだシャワー中。

姐さん(声) ホテルカリフォルニア〜♪
テルオ(独白) 逃げるべきか、それとも、7万5千もらってミニスカポリスに逮捕されるべきか…


○原っぱ(テルオのイメージ)

弟 はやく手術代稼いでよ、兄ちゃ〜ん!


○組長の家

テルオ …逃げよう。

 と部屋を出ようとすると、組長の声が響いてくる。

組長(声) おーい、帰ったぞ。
テルオ …何?何?

 姐さん、バスローブ姿であわてて出てくる。

姐さん やだ、あの人だわ。見つかったら殺される。
テルオ こ、殺される!?

 姐さん、とにかくテルオを部屋の外に押し出す。


○ホテルの部屋

 バスルームに閉じこもったレイコ。ガラスのドア越しに山崎が叫んでいる。

山崎 愛してるんだ、君のことを!
レイコ 私もよ。…ああもう、どうしたらいいのよ?


○組長の家・玄関先

姐さん 早かったのね。
組長 お前が、早く帰ってこいって言ったんだろ。
姐さん え?


○組長の家・トイレ

 隠れているテルオ。と、携帯が鳴る。

テルオ やばいって…(電話に小声で)はい?


○ホテルの部屋・バスルーム

レイコ (テルオに電話で)もうお願いだから、今すぐ私のこと嫌いだって言って。

 バスルームの外、山崎がドアに体当たりしている。


○組長の家・トイレ

テルオ もしもし?
レイコ 私ってダメな女でしょ。
テルオ 今、する話じゃねえだろ。
レイコ 間も悪いでしょ。私のダメなとこしりとりしよ。
テルオ なんだよそれ。
レイコ ものぐさ。
テルオ さ?さ…サボリ性。
レイコ うどんが嫌い。
テルオ なんだよそれ?
レイコ 嫌いなのー!


○ホテルの部屋

 細く開けたドアから顔だけ見せて、泉が話している。

泉 組長がな、姐さんとあんたのこと感づきよった。
山崎 (びっくり顔)
泉 命が惜しかったら、はよ日本離れたほうがええぞ。


○組長の家

姐さん だから、中国のね、宝石屋さんが来てるの。
組長 そいつはいい男か?
姐さん 女よ。
組長 玄関にある男物の靴はなんじゃ。
姐さん ご夫婦でいらしてるの。ご主人はね…
組長 どこにおるんじゃ!おい!こらー!


○ホテルの部屋

レイコ (しりとりの続き)グズで傲慢。あ、あなたの勝ちね。ということで、あなたは私のことが嫌いに決定。
テルオ なんだよそれ!

 バスルームのドアが開いて、山崎が現れる。

レイコ あ、アインシュタイン博士。(電話切る)
山崎 事情が変わった。今すぐ、日本を離れなきゃいけなくなった。ついて来てくれるかい。
レイコ え…
山崎 愛してる。
レイコ うん。
山崎 別れを言っといたほうがいい奴がいるなら、ちゃんと挨拶しておいたほうがいい。
レイコ わかった。行ってくる。
山崎 一緒に成田に行こう。上野で待ってる。
レイコ 京成スカイライナーで行くのね。(去る)
山崎 (見送って頷く)


○組長の家・トイレ

組長(声) どこにおるんじゃあ!

 テルオの携帯が鳴る。

テルオ (大慌て)はい。


○路上

 チャイナドレス姿で走りながら携帯をかけているレイコ。

レイコ もしもし、どこにいるの?


○組長の家

テルオ レイコ、大変なんだよ。
レイコ どこにいるの?
テルオ えっとね…(メモを見て)新宿区若葉、2の4の6のね…

 と、トイレのドアが開き、怖い顔の組長がテルオを見つける。

組長 誰じゃ、お前は!
テルオ …はじめまして、リンさんでーす。(泣きそう)


○路上

レイコ え?リンさん?


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