IRON POT
○組長の家
応接間でご対面しているテルオと組長、姐さん。
組長 で、その奥さんちゅうのはどこにおるんじゃ。
テルオ は?
組長 …やっぱり、そうか!
テルオ (中国人っぽく)あー、ちょっと、探してくるよー。
と廊下に出るドアを開けるが、組員二人が外に立っている。
テルオ …やっぱ、ダメですよね。
組員の一人、小型プレイヤーのスイッチを入れる。しゅぽぽぽんと桃太郎侍の効果音が流れる。
テルオ 何?
応接間で組長、テルオを睨んでいる。
組長 ひとーつ、人の世の生き血をすすり。
テルオ …それ、パクリじゃないですか。
組長 みーっつ。
テルオ ふたつ目はどこ行ったんですか。
組長 みにくい浮気相手を~、でぇーい!
テルオ なにが言いたいんですか?
組長 なにも言いたくねえ。ムードじゃ!
テルオ ?
組長 かぁーっ!
テルオに向かってくる組長。ドアを背にしていたテルオ、ドアを開けてそれをかわす。
ドアの外、廊下にレイコが来ていた。顔を見合わせるテルオとレイコ。
組長、そのまま廊下を突進し、トイレに突っ込んでウォシュレットの水をかぶってる。
テルオ やばい、殺される!
レイコ ?
テルオ、応接室に自分だけ逃げ込む。ドアの外に残されるレイコ。
再び突進してきた組長、閉じたドアの前でレイコと向かい合う。
レイコ はい!?
組長 こ、これは、リンさんの奥さんですか?
レイコ は?
すかさず出てくるテルオ。いきなり開いたドアで押しのけられるレイコ。
テルオ (中国人っぽく)はいそうでーす、リンさんの奥さんでーす。
レイコ ちょっと、何すんのよ。
テルオ シャラップ!しゃべんなお前!(姐さんに)ね、ね、奥さん。
姐さん 奥さん、どこ行ってたの~。
レイコ え?
テルオ どこに行ってたー。さ、中に入る。入るー。さあ入って。
応接間に入る一同。あ然としていた組長、気がついて仁義を切るポーズ。
組長 ご無礼つかまつった!
テルオ うん。
組長 本当に、宝石を?
テルオ そうよー。何故に、暴力ふるうかー。
姐さん あんた。買って。
テルオ そう。これは、西太后が身につけていた、ものすごいー高価な幻の石ー。
姐さん 疑った罰よ。
組長 おいくらですか。
レイコ 300万円です。
テルオ …お前、しゃべんな!
組長 (しまったという顔)
○路上
現金300万円を手に走り出てきたテルオとレイコ。
テルオ ええー?(現金を持ちながら、まだ驚いてる)
レイコ 儲かっちゃった!
テルオ まずいよこれ、ばれたらどうすんだよ。
レイコ 大丈夫、誰もプラスチックだなんて言わないって。
立ち止まるテルオ。
テルオ じゃ…この300万で、弟を妹に…
レイコ だめ、これで買いたいものがあるの。
レイコ、300万を奪ってひとりで走り出す。
テルオ なによ?なんで?なんでそう自分勝手なのー?ねえなんなのそれ、何に使うのよ?
叫びながらレイコの後を追いかけるテルオ。
○デパート
買物中のレイコ、スーツケースのある売り場を見つけて立ち止まる。
両手にいっぱい紙袋をさげたテルオが後に続いている。
レイコ あ、これよこれ。これ下さい。
店員 お買い上げでよろしいですか?
テルオ お前、そんな買いこんでどうすんだよ。もう、100万使ってるぞ。
店員 おめでとうございます!
くす玉が割れ、『来客100万人おめでとうございます』と書いた垂れ幕が下がってくる。店中の人間がわっと集まってきて拍手している。店員、レイコを押してどこかへと連れていく。
店員 お客様は当店でお買い上げの100万人目のお客様。100万円分の商品券をさしあげます。さあどうぞ、どうぞこちらへいらしてください。
レイコ いえ、あの、急いでるんでいいです。急いでるんです。(と言ってるんだけど、どんどん押されていく)
テルオ なにこれ?喜んでいいことなの?いろんなことあるね今日ね。
○上野
西郷隆盛像の下で待っている山崎。
しばらく待っていたが、やがて、レイコの分らしい切符を破り捨てて立ち去る。
入れ違いでやって来る、豪華なドレスを着たレイコと、大荷物を持たされているテルオ。
レイコ 早く早く!
テルオ 重いんだよ。
レイコ (あたりを見回して)来てない…
テルオ え、なに?
レイコ どうして?
テルオ 誰?誰?
レイコ ああ…(泣き崩れる)
テルオ なに、どうしたのよ?え?
レイコ なんだっていいでしょ!
テルオに構わず泣き出すレイコ。西郷さんもなぜか泣いている。
○テルオの部屋
ドレスのまま、まだしくしく泣いているレイコ。
テルオ いつまで泣いてんだよ。
レイコ 次にベイスターズが優勝するまでよ。
テルオ どうすんだよ、この300万。
レイコ あげるわ、もう。
テルオ …え?え?
自分のマンガの載っている雑誌を手にとるテルオ。
『どうしても300万必要なんだ』『じゃあ私があげるわ』『ありがとう…』
テルオ …すっげえ、俺がアイアンポットだ!
ピンポーンとチャイムが鳴る。
テルオ はい、どなた。
泉 アイアンポットです。
玄関から、泉が片手に銃を構えて入ってくる。驚くテルオとレイコ。
テルオ あ~…(がっくり)
泉 ピストルから失礼します。
テルオ ああ…
泉 回収します。
テルオ え、回収…
泉 100万、200万。(と数えながら、机の上の札束を自分のポケットに入れていく)と、これ商品券な。100万円分。
テルオ あっこれ、当たったやつ…
泉 よかったな。あんたら、これがなかったら、今ごろ東京湾で人間ワカメになっとるぞ。
テルオ ?
ビビってるテルオとレイコの前で、身体をくねらせて海中のワカメの真似をしてみせる泉。
泉 似てるか?似てるやろ。ワカメ。
テルオ ちょっと…わかんないです。
泉 ほなお前やれ。
言われて仕方なく、立ち上がってワカメをやってみるテルオ。
テルオ ゆーらゆーら、ゆーらゆーら…こんな感じですか?
泉 ああ、そやそや。ご苦労はんやったな。これが、約束しとった7万5千円。はい。
テルオ あー…
ワカメになってるテルオの上に、泉の投げた7万5千円分の紙幣がひらひらと舞う。
テロップ 『弟が妹になるまで 残り \2925000』
テルオ(声) その前にたぶん、俺がワカメになるだろう。
『END』
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