IRON POT


○ホテル街

 『HOTEL サボイ』の看板が見える路上。少し離れたところで、テルオ、レイコ、泉の3人が様子を伺っている。

泉 ええか、あいつら用心深いからな、二人べつべつに出てくるはずや。

 若い男がホテルから出てくる。

泉 ああ、あれが山崎や。
レイコ え?…かっこいいじゃない。(ちょっと喜んでる)
テルオ …(ちょっとムカついてる)

 少しおいて、ミニスカポリスの格好をした若い女がホテルから出てくる。

テルオ あ、あれが姐さんか。
泉 あほ。あんなんやったらワシが先にいっとるやないかい。あ、あれが姐さんや。

 ホテルから、同じくミニスカポリスの格好をしたおばちゃんが出てくる。

テルオ え゛〜!
泉 バッチリお前、逮捕されて来いや。
テルオ え〜、ちょっと、あれ勘弁してくださいよぉ!

 いやがるテルオ、若い組員に引っ張られて連れていかれる。

テルオ ちょっと、や〜、もう…
泉 あんたにはな、高級コールガールになってもらう。
レイコ あ…ダメです、わたしそんな女じゃないし。
泉 (携帯電話をかける)あ、もしもし。いつもお世話になっております。

 歩いていた山崎、泉からの電話を受けて立ち止まっている。反対側の路上で泉とレイコ、その様子を見ている。

泉 実はですな、山崎さんに、ええ女をな、紹介しようかなと思ってまんのや。
レイコ あんなシブい男が、そんなことで戻ってこないってば。
泉 ホテル・サボイで待ってますわ。

 と聞くや、山崎、くるりとUターンしてもと来た道を引き返していく。

レイコ ええ〜?

 と呆れ声で言いつつバックで画面から去り、

レイコ ええ〜?

 と戻ってくると、セクシーなチャイナドレスをきっちり着ている。

泉 なんやお前、えらいやる気マンマンやないかい。


○別の路上

 引っ張っていかれたテルオ、ミニスカポリスの姐さんとすれ違う。

テルオ (歩き去る姐さんの後ろ姿に再度げんなり)ええ〜?

 路駐している車の後部座席に放り込まれるテルオ。

テルオ あ、やめて〜!


○車の中

 中国服を着せられているテルオ。

組員 見える、見える見える。それなら中国人に見えるよ!
テルオ え?
組員 中国の宝石商のリンさんだ。はい、はじめまして。
テルオ リンさん?…あー、どうもどうも。(投げやり)
組員 それならね、組長の家行っても、ぜんぜん怪しまれない。はい、これが宝石。
テルオ あー、これ。…これ、全部プラスチックじゃないですか。
組員 いいのいいの。姐さんのね、ダイヤの半分はプラスチックなんだから。
テルオ こんなんじゃ、姐さん惚れないでしょ。
組員 あー大丈夫大丈夫。姐さんはね、柑橘系の匂いが好きなんだから。ほら、柑橘系のポン酢。
テルオ ポン酢?

 組員、テルオの頭にポン酢をビンごと振りかける。

テルオ わ、やめて、ちょっとやだ!臭っ、くさっ!ちょっとやめてーポン酢!


○ホテルの廊下

 部屋のドアをノックするレイコ。
 ドアを開けた山崎、レイコを見て二枚目っぽくウィンクする。微笑むレイコ。


○組長の家

 応接間に通されたテルオ。虎の剥製の横で虎の顔真似なんかして待ってる。
 赤いドレスの姐さんが入ってくる。

姐さん 中国からいらしたんですって?
テルオ (頷く)
姐さん 私、モエコ。(と中国語で言う)
テルオ に、にーはお。
姐さん あいさつがわりに頭突きをしてもいい?(と中国語で言う)
テルオ あ?

 テルオ、頭突きをくらって倒れる。


○ホテルの部屋

 回転するベッドの上で、山崎とレイコが向かい合って座っている。

山崎 君は、昔、俺がすべてを捨ててでも愛したいと思った女性に似ている。
レイコ 誰にでもそんなふうに言ってるんじゃないの?
山崎 いや、君だけだ。
レイコ ほかの女の匂いがするけど。…私のためにすべてを捨てられる?

 言われて山崎、レイコの前に自分の携帯を取り出してみせる。


○組長の家

 目を覚ましたテルオ、ソファに寝かされた自分の上に姐さんがのしかかっているので驚く。

テルオ ひっ!
姐さん いい香り。なんて香水?
テルオ …ポ、ポン酢です。
姐さん ポワゾン?
テルオ ポン酢。
姐さん ポワゾン。
テルオ だからポン酢だって言ってんでしょ。ちょっと…

 部屋の電話が鳴る。

テルオ あ、電話、電話。
姐さん (ソファを下りて電話をとる)もしもし。

 解放されたテルオ、後ろで激しくえずいている。


○ホテルの部屋

 レイコの目の前で携帯をかけている山崎。

山崎 姉さんですか。


○組長の家

姐さん どうしたの。
山崎 もう、姉さんとお会いすることはできません。
姐さん なに言い出すのよ。
山崎 これまでにして下さい。
姐さん 山崎!
テルオ (後ろでびくっとしてる)


○ホテルの部屋

 電話を切った山崎、携帯を投げ捨てて、レイコに待っていろと合図してベッドから去る。
 残されたレイコ、ベッドの上で複雑な顔。


○組長の家

テルオ だ、大丈夫アルか?
姐さん (テルオの顔を見てにっこり)
テルオ …なんでしょう。


○ホテルの部屋

 ベッドの上で携帯をかけているレイコ。山崎はいない(シャワーを浴びている)。

レイコ あ、レイコです。


○車の中(走行中)

泉 なんや、あんたか。


○ホテルの部屋

レイコ 山崎さん、あたしのこと好きになっちゃったみたい。
泉 ほんまか。
レイコ ほらでも、あたしにはテルオがいるじゃない。ね、どうしよう?
泉 知るか。アホか、勝手にせえ。(電話切る)


○組長の家

 一人、待たされているテルオ。

テルオ …やっぱ帰ろう。

 と行きかけるが、


○海岸(テルオの回想)

 子供の頃のテルオと弟の会話。

幼いテルオ 『かわいい妹がいたらなあ』
幼い弟 『ボクが妹になるよ』


○原っぱ(テルオのイメージ)

 ダンボール箱の中で叫ぶ弟。

弟 兄ちゃーん!


○組長の家

テルオ …(座り直す)

 と、ミニスカポリスの服に着替えた姐さんがしどけないポーズで入ってくる。

姐さん どお?
テルオ (引っくり返る)
姐さん 逮捕しちゃうぞ。

 あわてふためいて逃げ腰のテルオ。

テルオ すっごいの来た、すっごいの来た!


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