勇払原野とは?

道央圏にある石狩低地帯の一角で、苫小牧から太平洋に至る一帯を勇払原野と呼んでいます。 勇払原野はかつて釧路湿原、サロベツ原野とともに北海道の三大原野と云われていました。 約36,000ha(山手線の内側面積の約5.7個分)の原野を構成する湿原の面積は著しく減少しているものの、 残された自然環境は、ウトナイ湖を含み、水鳥や草原性鳥類、 絶滅のおそれのある鳥類の生息地として重要な役割を果たしています。

■勇払原野周辺で工事を計画される事業者様へ

日本野鳥の会では、ウトナイ湖に流れる美々川から始まり、下流域に広がる勇払原野の豊かな自然環境を守ることを目指し、2005年度に「勇払原野保全構想」をまとめました。2006年以降は勇払原野において同地域を利用する希少鳥類の調査を進め、生息地保全活動を行なっています。
同地域内における諸計画の立案や実際の工事に際し、希少鳥類への影響が懸念される場合には、影響の回避や軽減のアドバイスを行なっております。 当センターまでお気軽にご相談ください。

勇払原野の歴史と現状

勇払原野は台地、砂丘、湿原、湖沼と複雑な環境を持ち、先住のアイヌ民族により 川を利用した太平洋側と日本海側を結ぶ交通の要衝として、またサケやシカ等の資源に 恵まれた土地として、自然と共存した文化がありました。

勇払原野の開拓は江戸時代後期からで、 農業開拓は湿地と霧、火山灰土に阻まれ、あまり進展しませんでした。


※勇払原野の土地利用状況(1998)

その後1960年代からの高度成長期に、空港に近く海にも面した広大な平地として目をつけられ、 第三次全国総合開発計画の一環として国内有数規模の重化学工業地帯を目指した、苫小牧東部開発計画 がスタートしました。

しかしその後オイルショック等の社会情勢の変化により、当初計画の10,700haの 土地の多くが未利用地域として残され、また農地として開拓された場所が放置され原野化し、 結果として鳥類の良好な生息地となっています。

勇払原野の野鳥

当会が2000年から3年間に行なった鳥類調査では、勇払原野で記録された野鳥は276種で、国内で記録された種の約半分にあたります。

国立公園である釧路湿原とは森林と湿原を併せた環境がある点では似ていますが、面積が少ない勇払原野の方が野鳥の種数は多く、多様な自然環境が残されていると考えられます。

また、環境省のレッドリストに掲載されている種は、実に18種におよび、特に、苫小牧東部地域は、チュウヒやアカモズにとって国内有数の重要な繁殖地で、弁天沼はガン類やオオジシギの生息数が「ラムサール条約湿地」登録の基準を満たしていることもわかりました。

そして近年では、絶滅危惧Ⅱ類のタンチョウの繁殖も確認されてきており、ますます勇払原野の保全が求められています。


勇払原野の保全構想

鳥類調査をもとに鳥類の生息環境としての特徴を把握した上で、 社会環境を考察した保全構想を2005年度末にまとめました。
勇払原野では、ヨシ原や湿地林等の低湿地を中核とした環境に、 希少種を含む鳥類が分布していて、こうした低湿地を中心とした保全が必要であることが明らかになりました。

そこで、特に重要な3つの コアエリアを保全することを中心に、勇払原野の広域的な保全と再生を提唱しています。 2006年度以降は、この保全構想に基づき各地域ごとの活動を行なっています



ウトナイ湖・美々川エリア
(原始河川保全エリア)

ヨシ原を蛇行する美々川は、開発が進んだ道央圏で奇跡的に残された原始河川で、 ウトナイ湖に流れる主要河川です。美々川を保全するためには、集水域の森林や支流河川の湿原も保全する必要があります。
ウトナイ湖は近年の急激な植生の変化に対応するため、水位の確保やハンノキ林の抑制、 湿生草原の復元等の対策が必要です。



静川・弁天沼と周辺草地エリア
(原野景観保全エリア)

多様でまとまった面積の自然環境が残されていて、勇払原野の保全の核心部分となっています。
しかしこのエリアは苫小牧東部開発計画の敷地内であるため、今後は保全を重視した土地利用計画への転換が必要です。



厚真・鵡川および早来・植苗エリア
(水鳥の採食環境保全)

この地域の田んぼや畑、牧草地は春の渡りの時期のガン類、ハクチョウ類の採餌場所として重要です。このため同地域は生物との共生を目指した農地の維持が必要です。


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