You may go home. 

                       

「で」と「を」と「に」が小さく印刷された本を
座席の前の中年紳士が読んでいた。
『英語で意見を論理的に述べる』
口元かすかに動かして読んでいた。
襟元の社章から一流商社勤務と読めた。

 

僕だって受験生の頃、必死に単語カードを繰った。
満員電車であろうとも人目を気にせずカードを繰った。
偏差値とやらも上がった筈だが
十数年前、我がクラスにカナダからの留学生を迎えたとき
Can you speak French?と問われて
No I can’t.と答えたのが懐かしい思い出さ。
放課後一言「指五本」と告げると「サヨウナラ」と家路に着いた。

 

いざとならば僕だって、必要とならばそこそこは
英語で話せない筈があろうか。
反語表現を感情的に用いて、電車の揺れに身を任せ
英語で話す必要のない日々に安閑とした。

 

 
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