吉本新喜劇





顔色悪ない?とたずねると
かい割れのお代わりはありません、と答えた女房に
十二月二十九日、市役所から要精密検査の通知が舞い込んだ。

幾つもの神社にお参りし
パラパラコツンという音を聞きながら
この春ばかりは真剣に「大事ありませんように」
と手を合わせた。

二月一日、明日が胃カメラという日
三人の子供と僕が残される悲劇を前にして女房は
「今晩から何も食べられないなんて」といたって元気にぼやいていた。

妻の体を思いやり、家族の行く末を案じた正月のモヤモヤは
「奥さんの胃は初めからいがんでいますので」という医者の一言で吹っ飛んだ。
それがレントゲンに変な影を落とし、
気ぜわしい暮れの無粋な通知となり、新年の神頼みとなり、
診察代4200円の損失となった。
「胃角部 小弯 辺縁硬直」の謎はあっけなく解けて4200円の損失となった。

すぐに食事は無理だろうと、森ノ宮から大阪城公園駅まで歩き
梅田に出て大丸の上でアナゴ鮨を食った。
梅新で映画を見た。「月はどっちにでている」を見た。

数カ月たったある日の夕方、
掃除機をかけながら
「ひとつでたほいのよさほいのほい」のメロディーを口ずさみ
「アラ、どんな歌詞かも考えないでハミングしていた。」と言った妻の姿を書き添えて
ほんわかほんわかと吉本新喜劇の幕は下りる。
年末年始のドラマは終わる。




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