若葉の頃


村に若葉が芽吹く頃
僕たち都会の中年は
ミヤマカタバミの可憐な姿をカメラに収めた
一行が手にした観光ガイドは王国に溢れ
盛りだくさんの賑わいだった

どこまでも澄んだ清流グリーン王国
裾野に広がる山菜王国
春夏秋はグラススキーとマットスキー
そして本番の冬スキー
すなわちオールシーズンスキー王国
さらにはエンジンがうなりをあげるエキサイティングバイク王国

鉄の馬と化したバイクは自然の王国の静寂を破り
うなりをあげて駆け抜ける
宙を舞うフラッグ 惹句踊るパンフレット

果たしてガイドの制作者は
村役場の職員から賛辞を受けたのだろうか
無論、役場の発注に応じて作られたのだろうから
喝采を浴びたとは思うのだが
異論を唱える人はいなかったのか

山の奥深く伝説の池の主に
雨を降らしめ給へかし、と乞うたように
人の訪れを乞うのは困る
夜叉姫が眠る神秘的な水面を波立たせないでくれ
この村の良さなど誰にも知らさないでくれ、と
異論を唱える人はいなかったのか

残雪の杉林にはザゼンソウが群生し
その一つ一つが「山笑う」の季語の意味を
考えこんでいるようでもあった



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