てっさ
「今の私、憂鬱が服を着て歩いているみたい」
との呟きに誘われて飲み屋に誘った
薄い二重がほんのり色づいた頃
アルコールに溶け出したメランコリーは
鋭敏な刃となって
次々と人を斬っていく
不平や不満、怒りや謗り
ついには僕までなじられて
透き通るてっさの一切れを
噛みしだく音を耳にした
ソクラテス
「こうふく」の「ふく」はどう書くのだろうか
痩せたソクラテスが呟いた
小太りのソクラテスには福の字しか浮かばない
降伏それとも降服−−何れにせよ
幸福とは相手を服従させることなのか
痩せたソクラテスの悩みは深まる
一方
小太りのソクラテスはビフテキの大皿平らげて
霞のデザート食いたがる