玉造界隈


驚くなかれ「二期制65分授業」なるものが僅少差で可決した日
「トリーゴ」が移転した。
セーラー服の女生徒がトレーにパンを乗せながら、
挨拶を交わしてくれる店だった。

玉造界隈では
その名も「パン屋さん」や、
GERMAN BAKERY「レオ・ナイスブレッド」など
焼き立てパン屋のはしごができる。
その中で
古くからある「トリーゴ」が先ず第一に移転した。

先生、元気出して下さいよ。
私達は二期制65分授業なんてボイコットしますよ。
寝耳に水の生徒に向かい
組織の中の一員に過ぎない僕は
「お上の事には間違はございますまいから」と『最後の一句』で
答えるしかなかった。

生徒の自治活動を重んじる清水谷の伝統が
多数決原理は少数意見の圧殺だとうそぶく手合いによってものの見事に壊された。
今回の決定に生徒の思いなど入る余地はなかった。
僅か数票の差はいかにして工作されたのか。
宴会政治が教育の場でも行われたのか。
「三期制50分授業」が駄目だというなら
全国99%の高校は間違っていることになる。
大して論議も尽くさずに全国に先駆けての改革だとは笑わせる。
悔し涙が流れて止まぬ。

上意下達の小役人が着任して以来、
僕の愛する清水谷は、僕の愛した清水谷へと見事に変貌を遂げた。
生徒は昼休みに自由にパンを買いに行くことさえ出来なくなった。

「カトリーヌ」も移転した。
復興した神戸の街に帰って行った。
ボドラーさんはフランス人で、奥さんは吉本の女優さんだった。
最後の日に僕は、クッキーを記念にと買い求め、
お休みの火曜日にいつもご主人と駅前ですれ違っていましたよ、と世間話をした。
もう神戸には帰りませんと言ってらしたのにとは言えなかった。

十数年来歩き続けた玉造界隈を、じっくりゆっくりと歩きながら
清水谷の精神よ復興せよ。自由と愛の鐘よ、今一度高らかに鳴り響け。
との思いが伝わる最後の挨拶を
僕は考えてばかりいる。


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