Sさんのこと





謝恩会までには間があると出向いた百貨店の
何基もある地階のエレベーターの前に
卒業したばかりの君がいた

もう会えないと思っていたのにね
買い物?進学先は決まったの?
軽薄な僕はペラペラ話す

寡黙な君は口元を少しゆがめて
かそけく、か細く答えてくれる

買い物です
大学は今のところどこも・・・

一枚で二人入れるチケットなんだ
記念にどう、と強引に誘い
ラファエロの壁画を見る君の横顔を盗み見した

登校の途中、君を追い抜くとき
おはよう、と声を掛けるのをためらってしまうほど
静かで控え目な人だった

案の定、すっと展示会場から消えて数カ月後
ある政党の機関紙が
双子の姉妹入党
と君を大きく取り上げたことに
僕は心底驚いた


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