早春の夜




夕食も済みポケーとしていた或る夜
まだ春も浅い頃
突如
frequentlyという単語がそのアクセント符号通り
ークェントリー フー クェントリーと口をついて出た。
そのあとにpersistent それからhesitate
続けざまに何かしら意味ありげに頭に浮かんだ。

この突然の意味ありげは啓示的だ。
意味を考え込むのは夜更けの楽しみだ。

それにしてもhesitateとは思い出深い。
二十年も前、浪人生活が決まった
まだ春も浅い頃
新しい単語カードの初っぱなに記したことばがhesitateだ。
persistentとは?
久し振りにアルファベットを口ずさみながら辞書を繰った。
frequentlyは「しばしば」という意味の筈だ。

この二十年、僕は
「しばしば」「忍耐強く」「ためらって」ばかりいた
ということなのか?
この二十年、僕は
「二の足を踏」みながらも
「しばしば」「がんこに」生きて来た
ということなのか?
「ちゅうちょ」し続けた二十年が
僕の今後を「口ごもら」せるのか?

一人うつらうつらとし始めた僕は
このあと次々に風呂から上がってくる三人の子供と
プロレスごっこをするであろう、
そのあとで「寝間をひく邪魔になる」と
女房から小言を食らうであろう、
と明らかに
予測がつくということは
いつもながらの夜なのだ。



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