新カリキュラム委員会




一九九七年五月十九日、定例の新カリキュラム委員会が開かれる部屋で
迷い込んで出られなくなったスズメが一羽
窓ガラスに身体をぶち当てて死んでいた。

沈黙が支配することの多い委員会で
何とか意見が出るようにとフリートーキングの形にすれば
問題解決のための方法ではなく問題点そのものが次々と提出される。

二期制65分授業なるものが僅か数票差で可決して以来
僕は愛した女に手ひどくふられ逆恨みしているような気持ちで
日々を過ごして来た。
「怨みの道は人の世のものではありません」たとえ西施に迫られようとも
僕の内なる伍子胥はにこりともしない。 
三期制50分授業のどこが悪い?えっ、言ってみろ。

「ちょっとそしたら僕の方から一言だけ言わせて下さい」と
長い会議をさらに長いものとした管理職は
講習と補習と補充授業との違いも知らぬ奴だった。
高校の教壇に五年しか立ったことのない男は
「伝統ある清水谷高校のあり方は今まで通りで充分満足しています。
確固たる信念を持ってこれからも続けていただきたいものです」
との保護者の意見には耳も貸さず、ゴリ押しの改革とやらを進めて行った。
それに加担した平目教師や変節教師たちの言動を、僕は逐一記録した。

「常日頃の教育活動すなわち授業を第一義に」という結論が
明日の授業の憂いの無い管理職から自信たっぷりに語られるのは真っ平だ。
管理職の最大の責務は現場に混乱を持ち込まないことだ。

NHK朝の連続ドラマ『走らんか』の舞台に使われたのは本校である、と宣伝しても
ドラマが低い視聴率で終わったあとは、記念のテレフォンカードしか残らない。
本校の制服を着て高校生を演じた女優が
『Nudity』というヘアーヌード集を出版したことに
古い卒業生は眉を顰めているだろう。

二期制65分授業という下らぬ制度の犠牲者は
必死に50分を教えていた善良な教師であり
休みの前の懇談で保護者ともども真剣に生徒の将来を考えようとした教師達だ。

一九九七年五月十九日、定例の新カリキュラム委員会が開かれる部屋で
迷い込んで出られなくなったスズメが一羽
窓ガラスに身体をぶち当てて、ものの見事に死んでいた。



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