「初めて 卒業生を送り出す 春に」
ガリ版刷りの詩集を百部作りました。
手元に一冊だけ残った
『ウ・カンナム氏の軌跡 ′70〜′81』
より、すべての詩篇を掲載します。


15,6の頃の作品も混じります。浪人生活、大学での四年間、就職、結婚、長男誕生の轍です。

  掲載作品 

1,かつては私自身への、そして今、
  あなたへのレクイエム
  71/2/2
2,死人よ 70/5 3,俚諺 71/3/6
4,誰も何も聞かないときに 5,無 70/1/29 6,機関手はシェシャー・キャット
           71/3/25
7,無題 8,詩集買って下さい 71/11/4 9,主流派誕生  72/9/29
10,融和 11,処世術 72/9/21 12,道化      72/6/19
13,友情 14,私小説 73/2/22 15,処女作     73/2/5
16,ロックアウト72/1/18 17,ちゃんと俺は 18,不明一二三 76/6/9 ,8/11
19,中野区野方(のがた)78/6/19 20,卒業 76/6/19 21,密約 76/3/14
22,薄明の彷徨 76/8/11 23,新任教師一二三 76/4/8, 8/16 24,討論 77/3/15
25,焦り そして苛立ち 77/3/15 26,黒メガネの総会屋 77/3/14 27,駄洒落 77/6/6
28,美味求心 79/4/5 29,儀式 79/4/9 30,泰宏に 79/8/8
31,親馬鹿 80/10/12 32,徹夜 80/3/5 33,山之口貘に 80/3/10
34,短詩(E氏からの習い事) 35,期末考査 79/12/8 36,苦行 80/3/3
37,遊びをせむとや生まれけむ 79/12/13 38,多忙 80/10/24 39,X氏への伝言 80/10/24
40,童謡 79/3/29 41,補習を求めるあなたへ 80/12/2 42,同一視反応 80/3/10
43,極楽トンボの過去 77/6/6 44,打ち明け話 80/10/21 45,出産祝い 80/10
46,折しも選挙の春 となりにどでかい
   マンション建設中
79/4/5
47,レーゾンデートル 80/5/23 48,敬老会でバッタリと 81/1/22
49,かのように 80/10/12 50,あとがき 81/2/25  



      かつては私自身への、そして今、あなたへのレクイエム




彼等が歓呼して仰いだ旗--
  それは血の色も生々しい黒ずんだ悪魔の遠吠えを思わせるようなものではなかった筈だ。
  それなのに、今
  彼等の顔に浮かぶ、その旗の陰影とも思える、青ざめきった薄ら寒い冬の日に、ひとつ、
  ひらひらと地に舞う枯葉のような生気のない微笑みは、一体何だというのだ。
彼等が見つめ続けてきたもの--
  それは実に力強く彼等の頭上に翻り、彼等を力付ける勝利の旗だったのではあるまいか。
  今、私は
  彼等の顔の中の薄ら寒い微笑みに接する度に深く考えさせられてしまう。
彼等は道に迷っているのだ。
  誰かが彼等の道を彼等から奪ってしまったのだ。
  そっと、黙って 彼等に一言も告げず 奪ってしまったのだ。
私の思いが誤りである筈がない。
  現に、彼等と共に行動してきた私も道を奪われた。
  彼等と同様に薄ら寒い微笑みを浮かべ、疲れ切った眼差しを
  定まらぬ対象に投げ掛けているのだ。



    ”死人よ




俺を導こうとする者は
死人か!

俺は導かれようとする手を振り切り
もと来た道を帰る

何かを残せ、だと
残すものは 何もない

あばかれた墓
ばらまかれた骨
こなごなに くずされた石碑

確かに殺したはずだ

なのに何故
今も わめきたてているのか

死人よ!

白塗りに壁に飛び散った赤い血
それは
お前の血だ



     俚諺




天才は 水に溺れて
カエルを笑っている

カエルは泳げるのさ
天才は泳ぐ必要がないんだ

丸い 小さな井戸の中
大海が待っている と誰かが言った

そんなこと どうでもいいんだ

天才は 水に溺れて
カエルを笑っている


     誰も何も聞かないときに




誰も 何も 聞かないときに
僕は 聞いてあげる   あなたから

誰も 何も 聞かないときに
僕は 内緒の話を打ち明ける   あなたに

でも 今は
何もせずに じっとみつめている   あなたを




       



たたきわられた氷塊
ふみつぶされた風船

インキのでない万年筆
カスのたまった鉛筆削り

折れた刀
先の曲がった釘

消えぬ消しゴム
固まったノリ

先のない道
弾まぬ心

涙も出やしない
このごろの俺




機関手はシェシャーキャット



彼等と彼女等を乗せて
にやにや笑いながら
機関手は 先を急ぐ

行く先もわからず
間違った線路を歩む汽車に乗って

彼等と彼女等は

墓場の豚に  会いに行く




       無題



打ちひしがれて
くそう
叩きのめされて
そう
もはや、何一つ為す術なく
そう
ただ頭かかえるばかりでも
 そう
ただ 生きていればよい





詩集買って下さい

”詩集買って下さい”と天王寺の地下街で
少し色の黒い
とても歯のきれいな
ちょっと痩せた感じの女の子が

詩集買って下さい 詩集買って下さい

そう誰かに似ている
目と目が合って 白い歯、少し黒い顔

百円です 私の詩集 みついのりこ
えび茶色の表紙
澄んだ声が耳にのこる
ありがとう

あの少し話しかけていいですかあなたのお年あなたの心

沢山の人が通り過ぎる
通り過ぎる沢山の人に向かって
詩集買って下さい 詩集買って下さい
耳にのこってはなれやしない

その一頁
 
  心のささえとなり
   涙のはけぐちとなり
   悲しみそのものであり
   喜びそのものであり
   私そのものである愛が欲しい

   僕は あなたの詩集を買いました




    主流派誕生




我々の周囲にうごめく流れがあるならば
彼と彼女が寄り集まった彼等は
それを ある方向に向けんがために 頭を寄せ合う
ごつんごつんと
眼から火花飛び散らぬように流れを見極め
適度に触れ合わんがため
互いに相手の心を読み合いながら
何十年もの知己であるかのごとく 会話を交わし始める

さて、幾多の集団が形成され始めると
ひとつの集団、又、別の集団
それぞれ もっとも流れを自由に変え得る集団
にならんがため  各々の集団のなかで
戦術を編み出そうとする
実現可能な、その戦術の発案者こそが
兵法を心得た者であるかのごとく
集団内の尊敬を得
集団外から
羨望とやっかみの眼で見られる

かくして
主流派は誕生する





    融和




ラーン・ララ・ラン・ラーン 輪になって
クラスの文集 作りましょう

ラーン・ララ・ラン・ラーン 輪になって
ギターに合わせて歌いましょう

ぼくらは早稲田の園児です
みなさん一緒に遊びましょう

ラーン・ララ・ラン・ラーン 輪になって
楽しいクラスが出来ました

小さな輪ですが これからは
もっと大きくいたしましょう

ぼくらは早稲田の園児です
みなさん一緒に
あっそびまっしょ





処世術





私は とても聞き上手
相手の話を小馬鹿にし
よいしょと相手を持ち上げる
その方法を会得した

私は 会話の天才だ
相手の話の腰を折り
揚げ足取っては喜ばす
その特技が冴え渡る






     道化



道化を心得た道化には観客の気持ちがよくわかる
何を悲しんでいるの あなた
何を捜しているの あなた
何か見つけたの あなた

道化の笑いは軽やかに
心の底から響きはするが 
心の底までお見通し

あなた
道化の役をなさいませんか
みんなの前にすっと立ち 
ひとり
笑い始めるだけでいいのです
片一方の手を口元にかざし
もう片一方の手を大きく前に突き出して
誰だっていいんです 誰だっていいから指さして
おかしい、ああ、おかしいと 声を上げて
笑うだけでいいのです





     友情




一人は こむずかしい理論を
次々に並べ立て、又、並び立て
左右しきりに両の腕を動かし続けている

いま一人は 沈黙を決め込んでいる
ああ、あいつの意見は
あの本の、あのページに書いてある、と
腕組みで胸締めつけながら
一人 沈黙を決め込んでいる

そののち数十分
もはや知識のストックがなくなった雄弁の徒は
「ああ、疲れた」と
コップの水を飲み干し一息入れる

沈黙の徒は
ああ、あいつのため息こそが
もっともあいつらしい理論だな、と
にっこり笑い
やはり 目の前にある水を飲み干すのだった





    私小説

 

私を中心に描いた円は ちっちゃくて 拡がりがなく


それはそれは、π
r=アリの穴  アリの穴


けど 私とぴったり触れ合って


私そのものから離れやしない


π
r私のとりで  私のとりで







処女作




私は書いたに過ぎない
あなたは読んだに過ぎない

私は訴えたかったのかも知れない
あなたは理解してくれたのかも知れない

この作品を--

私は愛する
あなたは忌み嫌うかも知れない







ロックアウト





校務員のおじさんが
ハンドマイクを握り
学生は学外へ退去してください と
連呼したそのあとで
マイクを離してつぶやいた

職務だからね
どうだって いいんですよ 私は
つらいねえ
御静聴を感謝します

ああ 生きた言葉








ちゃんと俺は



俺は口臭だ
いくら俺を消そうたって無駄さ
お前さん達が
本能に任せて貪欲に食べたものを
ちゃんと俺は ちゃんと俺は・・・










    不明




節くれだった指に
鮮明なマニキュア
かさかさの ふれあいに
血の色した光沢が
のっぺりと 突き刺さる
朝・・・
もう起きる必要もない



たまげた と たまげてみせて
おどろきもせず ふりかえる
青春の後ろ姿に
遠吠え忘れた負け犬が
ヨチヨチ姿でつきまとう
チッ!
このことばは・・・
要らぬ



葬り去った過去が
身もだえて
俺に ささやきかけてきても
これからを
生きる この俺は
聞く耳持たぬ と
足げにして
先を急ぐ
この切なさ




中野区 野方(のがた)




中野区 野方 深夜二時
バス停 空き地 おでんの屋台
着古し ジャンパー 腰ダオル
毎度どおーッも の威勢よさ
冷やでいいっすか? に受け答え
ホカホカ フガフガ からしに涙
イモにハンペン  タケノコ 爆弾
破裂すれば黄味の影

おやすみの声に送られて
ごちそうさまの千鳥足
中野区 野方 早朝三時

環七沿いの四畳半
夢の浮き橋 とだえして・・・







卒業




ホワイトがオールドになった
一人になった

俺は帰った
あいつは行った

一人になった
一人になった







密約




レクイエムは奏でない
都会の喧噪の中で
柩挽く静けさは生まれない
君への愛は
袋小路の中で
スクランブル交差点
ぶつかりあって ぶつかりあって
行き着くところは終局
終わりが始まりに通じる
市役所 戸籍係







  薄明の彷徨




どうにでもなれ と
わめきちらした
青春に オサラバ

何とかなるさ と
悟りすました
青春に サヨナラ

どうにかしなければ
と、奮い立ち
何とかしなければ
と、震え出す
これからの人生に
薄明かりの中で カンパイ







    新任教師


  一

駅からずっと一緒に歩いて来やはった
先生やろか? 先生やろ そんなアホな!
あっ 校門入らはった やっぱし先生やんか
電車の中で えらいキョロキョロしたはった


  二

先生 L・L教室どこですか?
知らん
先生 家庭科教室どこですか?
知らん
何にも 知らんねんな
そらあ 新任やもん
知ってました


  三

狂気と同居できるなら
俺のすべてを語って見せる
はじらいを捨て
てらいのみ
俺は奴等に語って見せる




     討論



あっちこっち方々に
媚びを売るのは女の特権 邪心の散歩
私は私の信じるところを
声高らかに述べ立ててみたい

けんかを売ろうってのかい?
そう言って僕に絡んだ君よ
そうだよ、けんかを売ろうってんだよ
但し君が、値切らずに
僕のけんかを買うならね
駆け引きなしのぶつかり合いさ

君は随分 年老いちまって
君は随分 かたくなになっちまって
君は随分 要領よくなっちまって
すっと当たりをかわすかも知れないな

もんどり打って倒れた僕を
君が笑ってもかまやしない
その笑いは引きつっている
頬がヒクヒク震えている

きっとそうに違いない
お見通しだろう
なあ 君





    
焦り  そして苛立ち



私はあせっている
あせりにあせっている
時が無駄に流れたのではないという証しを
私自身の中に見出したい

私は選択を迫られている
物言わぬは腹ふくるるわざなりか
沈黙は金なりか

無性にこみあげる腹立たしさを
生唾飲み込んで押さえつけることが
私には出来ない
私はまだ年老いていない

己の求めるものの前に
立ちはだかるものを
横に押しやることは
己の求めるものまでも
遠ざけてしまう

それを恐れる
いらだちを覚える
私は余りに若すぎる





    黒メガネの総会屋



ああ、強靱な精神力が欲しい
私の正義を守護する全能の力が欲しい
彼等の不正を暴いたあとの
彼等からの横槍を防ぎきれる
精神の盾が欲しい
悪をのさばらすな
悪にふりまわされるな 

心ある者の結束によって
心ある者一人一人が守られるように
私は切に希望する

奴を放逐せよ
奴とその取り巻きを
一刻も早く放逐せよ
さもなくば
又、一人、そして次々と未来ある若者が
闇から闇へと抹殺される

悪をのさばらすな
悪を放逐せよ






駄洒落




今、学校で
もう結構と言いたいことが
次から次へと
結構沢山起こっている
激昂する前に
あほらしさの余り
下校する





      美味求心
    




素材を生かせ と、命じる日もあり
ソースに工夫せよ と、くだまく日もある
てんやわんやの台所で
和洋中
取り揃えています と
必死でうそぶく
君がいとおしい

僕たちの子を
腹一杯にふくらませ
そのふくらませた腹の重みに耐えかねて
横ばいに眠りにつこうとする







     儀式





今日はいい痛みが来ています、と
医者は陣痛室に僕を導く。
そこでは
金属の棒にしがみつき
顔を思いっきりしかめた司祭者が
身二つになる儀式に臨んでいる。
アホ面下げた亭主は、
まあ、しっかりおきばりやす、と言うだけで
聖なるドアーを閉じる。
待つこと小一時間 ふかすこと四、五本
オギャアーの祝福に
新しい父親はジーンと胸を詰まらせる。
生産者がベッドで運ばれる。
さぞや いきんだのであろう、
赤い斑点を顔中に作り
それが目の中にまで刻印された新しい母親は
以前にも増して崇高に見える。
ごくろはん ほんに ごくろはん






      泰宏に


ロッキングチェアにどっぷりと体を沈め
人に命じるのも
なかなか堂に入ったものだぜ 泰君

はい、かしこまりました、を聞き終えるまで
小刻みに足を動かし続け
気に入らなければ
じろっと伏し目がちに オックン オックン
大したものだぜ 泰ボン

お前の垂れ下がった頬には
要職にある者の威厳が備わっている
禿げ上がった頭には
人生を味わい尽くした渋さがある

おやおや ヤッチャン
どうした 又 しゃっくりかい
オックン、オックン、ヒック、ヒック、オックン

今だけだぜ 泰宏
お前の垂れ下がった頬が横柄でないのはね
父さんは お前の名に
お前を拉しさるあらゆる力に対抗せよ
との思いを込めたのだ






親馬鹿




泰宏よ
お前のことを 何やかやの詩に書いて
お前が 大きくなった時のために
などという
父さんの考えは
不純なものだろうか
お世辞抜きにかわいらしい
お前のことを





      徹夜



ダイアブロックが無残にも震災に会っている
ピーピー笛が真っ白い腹を上に眠っている
ゴムチューブのカエルだけが
ひっくりかえって僕の相手をしてくれる

子が眠り
妻が眠り
子が泣きわめき
妻が起き出した朝
僕は疲れた体を休めるために
休まらぬ心をいたぶるために
ひとつ
伸びをする







        山之口貘に




僕は、ある時期 貘さんを読んで
ああ あんなふうにも詩がかけるのだな
と、思った時から
スラスラとは行かないけれど
思いを述べてきたつもりです。
ねえ貘さん
あなたの沖縄は
僕の心を陽気にも陰気にもさせながら
今日も 鮮やかに そして しめやかに
日本の歴史のはざまを
生き続けているのですね。
貘さんには悪いけど
僕の最初の沖縄は観光旅行
次の沖縄は新婚旅行
昼間の原色が 夜の発光色が
僕をとらえて離さなかった 星砂のまち

でもネ
貘さん
僕は あなたの詩に
僕の今後を見ましたョ。





   短詩 (E氏からの習い事)

  ◇
右や左の旦那様 お乞食根性丸出しの 女は年をとりました
  ◇
シャボン玉だよ あの女 いくつもいくつも石けん水から出来るんだ
  ◇
あのセクトの女達 みんな鼻毛が伸びている
  ◇
生理的嫌悪 あの男のチンポのしわくちゃに 焼きごてをあててやりたい
  ◇
極道もんが 月光仮面を呼んでいる
  ◇
挫折を知らぬ人 飾り付けの造花 どんな虫も羽を休めない
  ◇
焼きすぎた皮剥の干物を 思いっきり噛みちぎった弾みで 皮剥が私の頬を噛んだ
  ◇
詩? 酔った勢いの書きなぐり 
又 次に酔いつぶれる夜の為の 手頃な安肴




      
期末考査


スピーカーに火気厳禁のステッカー
白壁に色チョークで描かれた的
捜せば必ずお○○○マーク
もしチョーク受けの中から吸い殻でも見つければ・・・

いつになく整頓された七列の机
鉛筆のササカサと消しゴムのタントンカン
時折 ズルッ ススーシューエホン
素朴なビートの中で
もし不正行為でも見つければ・・・

いつになく真剣な眼差しの
凝縮された五十分に立ち向かう君達
君達と社会の関係はなかなかしっくりいかないものだ
などと思いながら ひたすら時計の針を追う

チャイムの後の
ため息 喊声 落胆 驚喜
各種入り交じったざわめきの中で
答案を集める

ああ、何も無くてよかった







      苦行



退屈なのです 試験の監督は
いつもウンザリして、五十分を耐えるのです
おまけに教卓のないクラスに当たったのです
ウロウロと 又、ウロウロと---
陳腐な言い回しを使えば 動物園の熊のように
足の疲れと戦うのです
五十分もあれば
小さな旅行の目的地に辿り漬けますよ
それをただ
ウロウロと 又、ウロウロと
半分過ぎました やっと過ぎました
まだ半分あるのです
紛らしに鼻毛を抜こうとして
昨晩カッティングしたことを悔やみました
いつぞやの 又、いつかきっとの緊張の夜を
追憶し憧れて
胸の高鳴りを無理矢理こしらえよう
とはしたのですが
案の定、自分でシラケテしまうのです
又、ウロウロと 又、ウロウロと--
答案を早く書き終えた調子っぱずれが
隙を見て騒ごうと機を窺っています
ネトケネトケ と合図します
あと十分だ それあと九分だ
八分七分六分五分 時は金なりを浪費して
やいこら ハヨ鳴れ 鐘よ鳴れ
最後にウロウロと 最後のウロウロを
又 くりかえし まだ くりかえし
わめきたい気持ちを押さえに押さえて
心の中 心の中 鐘鳴れ鐘鳴れの
厳かな呪文をくりかえすのでした





    遊びをせむとや生まれけむ



あと数分で、延々六日も続いた試験から
解放される君達よ
昼からは大いに遊び給え
採点地獄に立ち向かう僕をからかうように
高くほがらかに笑い給え
僕にも君達のような時期があった
そう思わせてくれるだけでも
君達の哄笑には価値がある
笑い給え  カンラカラカラ
遊び給え  カンラカラカラ








     多忙




五時間寝て 又起きて 又又働き ちと飲んで
バタバタ働き眠りについて

四時間寝て 又起きて 又又働き ちび飲んで
バタバタ働き眠りにつけば
もう朝すでに明け放ち
急ぎあわてて 又働いて
ジタバタジリジリ 尻に火ついて

三時間寝て 又起きて 又又働き 飲まず食わず
起きてはバタバタ 寝てバタン

二時間寝て 又起きて
とわの眠りにつきたいために
薬を飲んで 又飲んで
もはや目覚めぬ 死体のリズム






 
X氏への伝言




ハッタリかまして
威厳を持って
デタラメぶりに
メリハリつけて
生徒の心をいたぶり続け
目覚める筈の自主性奪い
奪い奪い奪い続けてないが城
囲む堀端 ペンペン草 生えた







童謡



どんぐりの背比べの中で
随分低いくせして
ひときわ背高く見せようと
どじょうたちとも群れず
こんにちわの挨拶もせず
年寄りじみてつんと受け流す
そんな世間知らずのインテリを
僕はライバルとでも
呼んでみるより仕方ない








   補習を求めるあなたへ



何故に補習補習とわめきたてるのか
目先の肉塊によだれ垂らして吠えまくる犬のように
僕はエサに群がる犬たちのための
調教師なんかにゃなりたくない

ある調教師が犬たちのために
栄養満点のエサを与えたとしても
それは どこの店でも売っている
ドッグフードの詰め合わせ

何故に補習補習とわめきたてるのか
能動的であろうとして受動的でしかない点取り虫たちよ
僕は捕虫網にナフタリン忍ばせて
一網打尽に片付ける
採集者なんかにゃなりたくない

ある採集者が虫たちのために
甘い蜜を与えたとしても
それはバックボーンを腐らせる
毒を含んだ軟化剤


自らが問題を選び
自らがそれを解いて行く中でしか
真の方法は得られない
それを怠り、安易に他にすがり
僕の僅かな時間さえも奪おうとするのは
断じて許せない
確かに君たちの切実な声は
哀願を伴い、要求に転じ
補習をしない僕に対する批判にもなり攻撃ともなり
僕の夜を貴重な悩みの夜とした
しかし
たとえ君たちの眼に輝きがあったにしても
僕は主体的な自我の確立を目指そうとしない
偽りの向学心には価値を認めない

あなただけの力で目的を達成できた、と
断言出来る日が来ることを
僕は 心ひそかに 待ち望んでいる

高校は予備校にあらず

どうか君たちの手で
僕を受験屋さんにおとしめないで欲しい
どうか僕の真意を
この雑文から汲み取って欲しい

真意を測りかねることから
愚弄な民は時の権力者の格好の餌食となる





    同一視反応




レッテル貼りの好きなアナタタチヨ
私に無能のレッテルをお貼り
怠け者のレッテルをお貼り
無責任のレッテルをお貼り
そうすりゃ 私は
私の 道を
エヘラ笑って進めるだけさ

レッテル貼りの好きなアナタタチヨ
あなたに有能のレッテルをお貼り
勤勉のレッテルをお貼りそうすりゃ
アナタタチハ
責任を持って自らを殺し
アナタにひれ伏す者どもを殺し
アナタタチがひれ伏す国家に殺される








   極楽トンボの過去



夏の夜などは窓を開け放って眠ったものだ
もやもやと反転を繰り返しながら
くそ暑い夜を過ごしたものだ
取られるものなど何も無い
薄汚い下宿の二階は
昼間の照り返しが夜も冷めやらず
真下のアスファルトが
夜の闇の中でも光って見えた








    打ち明け話




気の利いた言葉を考え続けていて気が付いた
僕は気の利かぬ人間だってことを
陳腐な言い回しでしか
君に語りかけることができないくせに
気取った言葉を見つけ出そうとして
焦っている自分の額に
あぶらあせ
ただネ くりかえし
次の言葉を どなりまくればよかったのさ
好っきゃねん 好っきゃねん  好っきゃねん





 出産祝い



僕のすぐそばで
どんどんどんどん ふくらんでいった
あなたのおなか

冬の終わり
あなたが長い靴下を履いて来た時から
僕はあなたのおなかばかりを
見つめていた
君によく似た女の子をお生み
かわいくて
しっかり自分というものを持った
女の子をお生み

女房の他に
初めて気になったあなたのおなかが
すっと 僕の横から消えて
数週間

ほれ ごらん 女の子だったろう
どんどんどんどん ふくらんでいく
あなたのおなかを見つめながら僕は 
いつも いくつも
祝福の言葉を考え続けていたのだ
けれど




    折しも選挙の春  
        となりにどでかいマンション建設中


ヒューヒューと
春の夜風に鉄骨の
群れが奏でる音を聞け

昼中 街中
シャーシャーと
自分の名前を連呼し続け
セクト防衛のためにドグマをまき散らし
青空が帰って来たなどと
誇大広告をした
候補者よ

隣りに突如
鉄骨の
赤茶けた鉄骨の
残忍さを包み隠そうとしてはだかる鉄骨の
エゴの骨格標本の
庶民をせせら笑う
音を聞け




     レーゾンデートル





名も無き雑草のように、という表現に出会い
ふと思った
植物学者はあらゆる草花に名を付けた筈だ
名も無き雑草などあれば
それは新種発見だ

それにしても僕のまわり
名も知らぬ草花が多すぎる
いくらもいくらもありすぎる
それは僕の無知のせいだが
しかし、ひょっとして
雑草の方で 名を拒んでいるのではないか
名など付けてもらわなくていい
存在そのものとしての価値を
彼らは名を人々に知らせない もしくは
忘れさせるという手で
主張しているのではないか

そう思い僕は
ガリ版刷りの名も無き人の詩集を
読み続けた  




     敬老会でバッタリと
          --大変を背負って巣立つ君達へ--




人間の体温ってのは生ぬるいものだから
暖めてくれる人がいないと
すぐ風邪を引いてしまうのです。
チロチロチチロ 心に火種が尽きると
風邪をこじらせてしまうのです。
燃えないゴミの収集日に
誤って自分を捨てないように気を付けて
お互い、ただ生きていましょうね。
そうして
たとえば春の日だまりの中
ポリデントの入れ歯ガタガタ鳴らし
リュウマチの足腰さすりながら
あなた七十 ぼく八十が
「おや、まあ」と互いに鼻先指さして
それでいて誰だか思い出せない
そんな出会いをしましょうね。
そしてボソボソと問わず語り
ただ「近頃の若い者は・・・」なんて
決して言わないでおくのです。


               (一九八一年一月二十二日 二十八歳の日に)






かのように




ちょっと試作に出掛けてきますと
十年
彼は日常生活の中に埋没してきた
ちょいと創作の糧にと
十年
彼はふだんの暮らしに
自分の夢を
葬り去ってしまった







   あとがき



僕の詩(らしきもの)を
何度も何度も幾日も
読んで聞かせられ 意見を求められ
まあええんちゃうとばかり
相槌を打ってくれた妻と
卒業式までの数日間
文集作りに加えて 僕の詩集(らしきもの)作りの
手伝いをしてくれた
心優しき人達に
感謝の意を表します。

そいで何とか
ちょっと素敵で私的な詩集が
できました。
     (一九八一年二月二十五日)




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