世界のニナガワ
見ず知らずの若者に喫茶店へ誘われて
「あなたは希望を語りますか」と問われたとき
テーブルの下にはナイフが隠し持たれていることを
蜷川さんは知った
「馬鹿言っちゃいけない。俺が希望を語るわけねえよ」
慌てず騒がず「世界のニナガワ」は難を逃れた
教師になって三十年近く
「夢を信じない者は現実家ではない」とか
「強く願えば夢は叶う」だとか
僕は何度も生徒に語った
教室には理想を胸に抱いた前途洋々たる若者がいる
客席には千本のナイフを持った若者がいる
希望の鎖を断ち切ろうとする若者に向かって
いつまでも疾走するジジイでありたい
と高名な演出家は語る
僕は孫の守りをしながら公園で鳩に餌をやるじいさんに
早くなりたいと思っている
朝の光を浴びながら