避らぬ別れ





あと何回もおつかいに行くつもりだったのに
「ほたらな」「ほな又な」が最後になった。
五月十七日早朝、七十六のおいっちゃんは
唇の紅鮮やかに、あの世へと旅立った。
六時間もの手術に耐え、元気を取り戻し、
見舞いに来た息子さんを叱り飛ばし、
「早よ、家に帰ったり」と、
孫さんの心配をしたという。
古き良き北河内を具現化した姿が
一つ、又消えた。
「どもっしゃない」「のいとくれやっしゃ」「こうつと」などを
ふだん語として使う人が
一人、又減った。

携帯電話が街にあふれる御時世だ。
インターネットとやらが
クリントン家の猫のおかずまで知らせてくれる御時世だ。
経済優先のこの世では奇妙なものがはやっている。

冥界との通信は
心ひそかに手を合わせ
静けさを共有するのが大切だ。

献花に埋まる柩の中に、僕は
一篇の詩をそっと忍ばせた。

「どもっしゃない」んか、おばちゃん、
ついに行く道を、「のいとくれやっしゃ」と
そないせかんでもえぇやないか。

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