おいっちゃんのおばちゃん



おいっちゃんのおばちゃんは三つの時から知ってんねん。
今だにおつかい頼まれて、おいっちゃんに会いに行く。
自転車こいで会いに行くと、
「すまんな。おおきにな。」と、おいっちゃん
御進物のハム手渡して、表書き破りながら手渡して
「こんなもんしかないけどな。」と言いよんねん。
「お前、度の強いメガネかけとんな。」「えらい白髪増えたな。」
続けざまに言いよんねん。

「おばちゃんも皺だらけやないけ。」
そない言うたるわけにもいかんし
「俺かて四十過ぎたんや。上の子は俺より背が高なって一八〇センチもあんねんで。」
こない言うのがせいぜいや。

いつも決まって言いよんねん。
「早よ、お父ちゃんの跡継がんかい。いつ校長はんになんねんな。」

−−−教師いうもんはな、教壇で生徒と教材を通して語り合うのが仕事やねんで。
俺を通して平家や西鶴や漱石や芥川やらを生徒は知るねんで。
こんな魅力的なことあるかいな。

「教壇を自ら望んで離れた奴に教育の何たるかを語らせてたまるもんか。」
死んだおとっつぁんとよう言い合いしたなあ。

回想とやらにふけっていると、おいっちゃん
「寒いしな。立ち話もなんやしな。上がっていき、上がっていきいな。」
と言いよんねん。
「そやけどな、おばちゃん。もうだいぶと話したしな。又、今度ゆっくりな。」
「又、今度言うたかて、おばちゃん、いつ死ぬかわからへんで。」
「そんなことあるかいな。肌かてつやつやしとるやないか。」
「ほたらな。」「ほな又な。」


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