にゃんにゃん
炊き立ての御飯であろうと
冷たい弁当であろうと
サバの塩焼きがおかずの時
僕は「にゃんにゃん」を思い出す。
「にゃんにゃん」とは
いっとき流行った男女の秘め事を表す言葉ではない。
サバの小骨を取り除いた祖母が、
その口の中で御飯とともに噛み潰し
僕に与えた離乳食が「にゃんにゃん」だ。
幼い僕の口元には何度もスプーンが運ばれたに違いない。
「にゃんにゃんだと、この子は四杯も食べる。」
そう言った祖母の言葉を記憶しているのは何歳の僕なのだろうか?
その日、祖母は湯船で泣いた。
忠治さんの奥さんが若くして亡くなったのを知って
「なんで忠治ばかりが・・・」と祖母は泣いた。
幼くして両親と死別した忠治さんが、今又、奥さんに先立たれた日、
五右衛門風呂を跨いで上がる祖母の、股の間の黒い部分が
幼い僕をも跨いで見えた。
年明けて、四十四になる僕は、
サバの塩焼きとともに
一気に時を溯る。
「にゃんにゃん」とともにその一瞬が甦る。