西先輩





朝のニュースを伝えるアナウンサーの顔が歪んで見えた
エスカレーターの階段はすべて「く」の字に曲がり
ぼくを、くくくと笑っていた
おかしいと思ったらどうして早く来ないのですか
西先輩は僕を叱った
緊急手術を控えた夜に台風もやって来た
痛くないですか
そりゃあ痛いですよ
そう言われると覚悟も決まる
しっかりね
先輩は病室まで足を運んで下さった

青や紫や白や黄色の光の中で
暗闇の不安に脅えていた
一時間近い手術のあとの痛みを僕は
爪楊枝を頭に差して耐え抜いた

今なお目の中を虫が飛びまくる
さらには
糸屑の絡んだのが数本、サァーと視界を横切る
「一種の老化現象だからあきらめなさい。慣れなさい。」
と先輩は言う
剥離手術後の検査のたびごとに
「今は落ち着いています。」
と先輩は言う
「眼圧が上がるといけないからビールを飲むときは少しずつゆっくりね。」
たとえ先輩の忠告でもそれは出来ません。ビールは一気に飲んでこそ旨いのです。
ところで先輩一つ尋ねたいことがあるのですが 
どんな時に落ち着きを失ってそわそわし始めるのでしょうか
そわそわしだしたら
また僕は覚悟を決めなければならないのでしょうか




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