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老人はワープロの前に、まあるく腰を下ろし、
マニュアルを見詰めては画面を眺め
「私は日本語ワープロを初めて使いました。」
と打ち終えた。

通りがかった若者を呼び止め
「昨日から始めて36頁の説明まで来たよ。」
といささか得意げに話しかけた。
「Eさんがお上手ですよ。」と若者が言うと
「まあ、あの方はお暇だから、
一人孤独の世界でキーを叩いていらっしゃるんでしょう。」
自嘲とも取れる言葉を吐いた。

立ち去るタイミングを逃して若者は、
釣り人の後ろから覗き込むようにして、老人の指先を見詰め、
「字がお上手ですのに。手書きの方が随分と早いでしょうのに。」
と言ってしまった。
すると老人は、
「それを言っちゃあおしまいよ。」
と突然、寅さんになって笑い出した。

「ひとつ練習の成果を見せて上げよう。」
手にした議事録をそばに置き
「全員一致した意見により上記のように決定した。」
と打とうとしたとき
ワープロの画面には「一致死体券」と出た。

老人と若者は顔を見合わせ、
機械のくせに「なかなかやるな」と思ったに違いない。



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