我が軟式野球部
前年度優勝校、西寝屋川との試合はまさに感動のドラマであった
延長16回表、一死後9番山田君がライト前にヒットを放つと、すかさず東川君がバント
相手の守備が乱れ、東川君は右手を大きく突き上げて一塁ベースを駆け抜けた
ベース・コーチの高平君は声を嗄らし、2番赤下部君の一打に期待した
フルスイングのピッチャーゴロ
万事休す、と思いきやフルスイングが奇跡を呼んだ
マウンドを駆け降りたピッチャーがダブルプレーをあせりセカンドへ悪送球
山田君がガッツポーズでホームインした瞬間、そりゃあもうベンチは大騒ぎ
キャプテンの松本君と監督の松安君ががっちりと握手を交わす横で
武氏君は「やったぜチキショー」と何度も叫んでいた
0対0の均衡が破れたその裏、若林君の投じる一球ごとに鳥肌が立った
リゲインを飲みながら16回、彼の腕はもう棒のようになっていた
ワンナウト 華麗な守備の大井君のところに飛んだ球は大丈夫
ツーアウト サード阪本君の矢のような送球を地蔵パワーの大仁君ががっちり受け止める
何しろこの年の我がチームは幾つもダブルプレーを演じて見せた
僕の横でマネージャーの小久保さんが感極まって泣き出した
彼女の髪に触れ、そっと肩を抱き寄せたとしても断じてセクハラなんかじゃない
指の先から血が逆流していくように感じて勝利の時がやってきた
外野から山田君が東川君が赤下部君が雄叫び上げて駆け寄った
シーソーゲームとはよく言ったもので二転三転、
三度雨で順延となった府立高専との試合は追いつ追われつの好試合だった
初回に入れられた3点を2回一気に6点も入れ逆転
その後小刻みに加点され6回逆転されるも7、8回と1点ずつ入れて再び逆転
野球は8対7が一番面白いと言ったのはルーズベルトだったかと記憶を辿っているうちに
8回同点に追いつかれて延長は11回裏、
満塁のピンチに菊池君の投じた一球がバッターの胸元をかすめてしまった
監督の長谷川君はダッグアウトで帽子を投げ付けた
キャプテンの吉村君はセカンドの守備位置でへたりこんでしまった
マネージャーの三人が千羽鶴をゆっくりゆっくり取り外した
少なく見積っても100試合
多く見積もれば200試合
この十四年間、
顧問として見てきた我が軟式野球部の試合の中から特に思い出深い二つを取り上げて
三年生同様最後の夏になるかもしれない僕のメモワールとしたまでだ
自分の采配ミスさえなければと監督は泣いた
何度もやめようと思ったがみんなに励まされてとキャプテンは泣いた
汗と涙の青春ってやつは何も甲子園の専売特許じゃないんだからね