幹ちゃん
学期に一度の映画会が
ついこの前、父親に連れられて見た作品だったものだから
幹ちゃんは次にどうなるかを暗がりの中で
少し大きめの声で話し出したのだ
教室に戻ってみんなの前で
おなご先生は幹ちゃんを叱った
「初めて見る人がほとんどなのに、話の先を言うなんて許せません」
僕は幹ちゃんの話にわくわくしながら
映画を見ていたのだけれど
縦笛の上手な幹ちゃんは
おとこ先生に指名されて合奏会の指揮者になった
ところがなかなか上手くは行かず
代わって僕が指名された
にっこり笑って指揮棒を手渡してくれた幹ちゃんは
くやしい思いをしていたに違いないが
肩の荷を下ろしてほっとしたのだと思いたい
幹ちゃんは今、市会議員。僕は高校の教師をしている。
幹ちゃんは率先して町の苦情を聞き
議会で演説をし、委員会や協議会で質疑応答を繰り返し
選挙が近づくと僕に後援会の案内をよこしてくれる