盟友





不思議と席が空いていた。
座った以上、立ち上がるのも失礼だ。
目の前は環状線名物「酔っ払い」だった

「雨降ってんの?なあ、雨降ってんの?」
昨日持ち帰るのを忘れた傘が話し始められるきっかけだった。
降ってない降ってない、と僕は手を振った。
「キョウテイは何人?キョウテイは何人?」と相手の目が揺れる。
二人だ、とVサインを送った。
「ワシャア七人。みんな馬鹿ばっか。俺が一番バカ」と
足元に置かれた缶チューハイに手を伸ばし
オッサンは古臭い演歌を歌い出した。
確か「流転」という曲だ。
たまたま痒くなった耳に僕は手をやり
慌ててその手を離した。

途中の駅で子供連れが乗って来た。
父親に手を引かれた子供に「コンチワアー」
子供も「こんにちわ」と言葉を返したのだが
すばやく送られた母親の合図で次の車輛へと移って行った。

残されて僕は
自分の降りる駅まで
オッサンと盟友になってしまった。

「雨降ってんの?なあ、雨降ってんの?」
降ってない、降ってない、
又しても僕は手を振った。




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