郷愁




なんでや?」と問い詰められて
少年は泣いた。
「なんで俺の方見て笑たんや?」と問い詰められて
少年は泣いた。
「笑てへん。笑てなんかいてへん。」
こらえ切れずにしゃくり上げた。
泣き顔を土にまみれた右手で隠し
今まで生きて来た中で一番不幸せであるかのように
少年は泣き続けた。
頬を伝う涙に夕陽が映えて
赤茶けた光沢を放った。

「もうやめといたりいや。」とかばう子があらわれ
「そやかてこいつが」という声を制した。

その横を自転車で通り過ぎた僕は
子供のみやげにタコ焼きを買って帰ることに決めた。

『あしたのおみやげタコ三つ』を聞かなくなって久しい。
「あしたのおみやげタコ三つ」とお互いが三つ叩いて別れを惜しみ
「又、明日遊ぼ!」と約束を交わす、
子供達の別れの儀式は、最早廃れてしまったのだろうか?

『あしたのおみやげタコ三つ』

ひょっとすると、あのおみやげは
僕と隣のみえちゃんとの二人だけの秘め事だった
のかも知れない。

夕暮れの街から
ようやく
少年の泣き声は
消えた。



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