虚実皮膜
「私の詩はないの?」と女房はすねる
「昔 書いたのでいいのがある
『厚生省改良式のトイレで君の名を呼ぶ れい子』
こいつが一番、目に染みる」と僕は答える
「もっと他には・・・」と女房はふくれる
「カラオケの練習をしている姿でも詩にしてやろうか
それもデュエット曲ばかり PTAの忘年会で歌うんだろ」と、すかすと
「人妻の肩に手を触れて その先どうなってもいいけどね
きっちり あなたの老後の面倒を見るという約束を取りつけてよね」と
ピシャリ言い放った
お前との間に横たわるものは実生活そのものであって、虚構の入る余地はないんだよ
十日遅くなるよ 十四日遅くなるよ
あと二つ三つ 忘年会が入るかも知れない
ワイワイ飲んでばかりの中で
一つくらいしっとり飲む日があったとしても
老後の世話まで頼めやしない
「変人!変わり者!普通じゃないあなたの面倒を見てくれる人なんて
いるわけないよ」と、お前は いやに 自信たっぷりだ
それにしても何故 この僕がヨイヨイにならねばならぬのだ
ボケ老人にならねばならぬのだ
お前よりも先になんて 勝手にきめるな
バカタレメ
たとえ もし 仮に僕が倒れたとしても何人もの女性チームで面倒を見てもらうさ
それをタライ回しと言うんじゃありませんか?
今日の女房はなかなか冴えてやがる
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