今を生きる





自分の名前は大理石に彫るよりも
天までとどくほど大きく育つ樹の幹に彫った方がよい。
その方が名前もどんどん大きくなる」
秋田先生は葉書にジャン・コクトーの詩を添えて下さった
「その場に最もふさわしい人になりなさい」
門田先生は中学生になろうとする僕を励まして下さった

「同好の士を誘って遊びにいらっしゃい」
暉峻先生の言葉に喜び勇んで一人で出かけ
浜名湖名産ウナギのパイが洋酒に合うと初めて知った

出産祝いにガリ版刷りの詩集を手渡そうと
電話した時にMさんは
「じゃあ どこにも行かないで待ってます」
と言ってくれた

転勤して初めてのクラブ付き添いの日曜日
PL学園との試合を終えての帰り道
マネージャーの田中さんが僕に言った
「先生の折角のお休みが私たちの為に台無しになってしまいましたね」
そう言われれば「何の何の」と答えざるを得ないじゃないか

「次の次の土曜日に映画の始まる15分前頃に私はそこに行っていればいいのですね」
「ええ予定通りでいいですよ」
待ち合わせが成立した時に僕の心は大きく弾む

今は千葉に住む同級生のEさんがピーナツと共にやって来て
携えたサイン帳を開いて見せた
そこには僕が彼女に書いた18歳のメッセージがあった
「自分の過去を紡ぎ出してくれる人が何人か要りますね」
そう言いながら彼女は僕の横にと席を移した

古い本で要らなくなったものは始末したらと妻は言う
新聞の切り抜きをあんなにためてどうするんですかと妻は言う
過去と戯れるのが好きですね、とお前は言いたいのだろうが
僕はね、早慶戦の紙吹雪までスクラップした男なんだ
それがどうしたのですか?
だから、その紙吹雪の中におまえもいたじゃないか

僕の書いたものを読んで下さった齋藤先生の言葉
「あなたの詩には穏やかな叙情があります、音楽が流れ出す詩です」

僕を支えているのは言葉なんだ




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