放課後





会議が中止になったので、随分早く校門を出た。
わが家の駅に着いた頃、近所の高校生たちもそれぞれの家路を急いでいた。
煙草をくわえた子はいなかった。
それにしても日本人の黒髪は実にカラフルになったものだ。
そのせいで頭を痛めているのが現場のおじさんたちだ。
白髪頭を掻きながら、薄くなり始めた分け目を気にしているおじさんたちだ。

「制服制帽」と昔は言った。
今、帽子を被った高校生など何処にいる。
伝説の制帽は、どこかの地方都市の蔵の中に
そっと眠っているに違いない。
「無帽を許可す」と同様に茶髪が許される日は来るのであろうか。

戦後すぐの映画が見たい。
今井正監督の「青い山脈」を見てみたい。
自転車の二人乗りが戦後の明るい世相を象徴していた、
そんな映画を見てみたい。

「いつになったら、その茶色い頭を黒くしてくるのだ。」
放課後の職員室には、又一人、又一人と生徒達が呼ばれている。
わが家にも一人、髪を染めた高校生が帰るやいなや
「今日もバイト」と出掛けて行った。

都会の喧噪の中で「若く明るい歌声」はどのように響いているのだろうか。
おじさんは耳を澄まそうとするのだが、
年相応に耳が遠くなっているのは否めない。



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