ハチ高原
十数年ぶりに、学生時代がよみがえってきた。
アパートで一人、グラス傾けた頃がよみがえってきた。
そう思い込もうとしてゆっくりゆっくりビールを注いだ。
イカの刺し身に甘エビとは最高だ。スルメもピーナツもエビ煎もある。
「先生はお疲れでしょうから・・・」
民宿のご主人の心遣いに感謝して、大瓶二本をぐいぐい飲んで
僕はひたすら眠りにつこうと試みた。
時折、甲高い笑い声や、ドスドスドタドタと廊下を駆ける音や、
畳の上をはう虫でも見つけたのか、ことさらわめきおびえる声が聞こえてくる。
それらを子守歌がわりに、僕はひたすら眠りにつこうと試みたのだ。
まわりの喧騒はアパートの隣人が友達と騒いでいると思えばよい。
まわりの音が気になればテレビのボリュームをわずかばかり上げればよい。
アパートで一人、眠られぬ夜を過ごした頃がよみがえってきた。
「先生はお疲れでしょうが、飲んだ勢いで生徒をどなりまくって下さいヨ」
二本のビールには隠された意図があったのかもしれない。
高校生になって初めてのホームルーム合宿
ついさっきまで校則をテーマに真剣に討論していた連中が
自分たちの決めた就寝時間さえ守れないなんて・・・
なんとまあ、早起きの連中だこと
ハチ高原での随分早い朝の見回りにと僕は
立ち上がった。
(一九八九年五月 清水谷高校44期ホームルーム合宿にて)