秋


蟹だって真っ直ぐに歩きたい時もあるさ
十七歳の少年は短くつぶやいた

爪楊枝の先を歯間にとられ
五十を前にした男は思う
これまでずっと
真っ直ぐに歩いてきたはずなのに

深い溜息の先には
濡れ縁があればよい
鼻緒の切れた下駄が
にわか雨に濡れていれば
さらによい

十七歳が親になり
小さなサンダルが居並ぶまで
しばしの間
しばしの間

食ってかかる十七歳に
立ち向かう五十歳は
ひょいと
秋の空を眺めるのだった
  


トップページへもどる