タンチョウサンクチュアリ通信「ぴっけるぴっけ」 2007年 特別号
−開設20周年事業のご報告−

発行:(財)日本野鳥の会 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ 
(編集:レンジャー 音成邦仁/渡邉美沙/伊東大輔/大熊千晶)

開設20周年事業

1987年11月に開館し、今年度で20周年を迎えた鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ。この節目の年だからこそできることをしよう。そんな想いから「開設20周年事業」は立ち上がりました。
 タンチョウの生息数は1,000羽を超え、数の上では当面の絶滅の危機を免れたと言われています。しかし、繁殖環境の不足、越冬環境の過密化、人とタンチョウとの軋轢など、問題は山積みです。給餌活動による生息数回復の成果をいつまでも喜んでばかりはいられません。このような背景を踏まえ、事業の目的を以下の通り設定しました。

1)これまでのタンチョウ保護活動と当会の活動を整理し、その成果と今後の課題を示す

2)これからのタンチョウ保護活動の推進に向け、関係者との連携を強化する

3)当会がタンチョウ保護推進に寄与するにあたり、その役割を示し、理解と支援を求める

4)次世代の人材育成に向けたきっかけを作る

5)タンチョウに対する興味関心層を拡大する

 
 
 この目的を果たすために、資金集めから始まり、記念グッズの製作やシンポジウムの開催などを進めました。11月11日のシンポジウムを最後に、開設20周年事業の大きな活動を無事に終えることができました。本号では、皆さまに事業の意義とその成果をご報告し、当会の活動へのご理解を深めていただきたいと考えています。(O)



開設20周年のシンボルマーク

 人とタンチョウが共存する社会の実現をイメージしてシンボルマークを作りました。


資金集め

 事業を実現させるためには、その資金が必要です。もちろん、これまでも多くの方々からご支援をいただいているわけですが、1年がかりの大きな事業を実施するには、そのための資金を確保することは絶対条件でした。
 2006年度後半より、地元釧路市内や札幌市内の企業を回り始めました。事業そのものには絶対の自信がありましたが、営業活動など、まったくのはじめてといってもよいレンジャーにとって、企業から資金を得ることは決して簡単なことではありませんでした。
 とにかく、自分たちの想いをぶつけよう。資金が得られなくても、多くの方々に私たちの活動を聞いてもらえるだけでも、画期的なことではないか。そんな想いで企業の担当者に話を聞いてもらいました。実際、どこの企業でも、私たちの話に耳を傾けていただけたことはとてもうれしいことでした。そして、少しずつ協賛をいただける企業も増えてきました。また、個人の方からご寄付をいただいたりもしました。最終的には、当初の目標額には及びませんでしたが、事業内容を再検討したり、経費を抑えたりすることで、事業実施が可能な資金に到達しました。ご協賛をいただきました企業・団体・個人の皆さま、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。(O)

協賛企業・団体一覧(五十音順)

アサヒビール竃k海道支社 大塚ベバレジ梶@釧路信用金庫 釧路綜合印刷梶@
釧路空港ビル梶@釧路丹頂農業協同組合 葛路日商連 
コニカミノルタホールディングス梶@且D幌テレビハウス すかいらーくグループ 
潟Zイコーマート 東亜建設工業梶@トヨタ自動車梶@日本野鳥の会奥多摩支部
福山醸造梶@ホーマック梶@(財)北海道環境財団 北海道電力葛路支店


開設20周年記念タンチョウ写真集

開設20周年記念
タンチョウ写真集
 コニカミノルタホールディングス鰍フご協賛をいただき、2001年度からはじめた「コニカミノルタ・タンチョウチャリティフォトコンテスト」では、毎年5点の優秀賞と15点の入賞作品を選出し、ポストカードの製作や入賞作品展を開催してきました。今年度は、これらに加え、別途同社のご協賛をいただき、タンチョウの写真集を作ろうということになりました。使用する写真は、これまでの全入賞作品120点の中から厳選することとし、第一次選考はレンジャーが実施しました。3人のレンジャーが満場一致で選んだ作品は意外に少なく、またそれぞれの好みがはっきりと分かれました。どうにかこうにか絞り込んだ写真の中から最終選考を同社にお願いし、掲載写真39点が決定しました。印刷・製本は従来の印刷ではなく、オンデマンド印刷を利用しました。また、「開設20周年記念タンチョウ写真集作品展」も各地で開催しています。
 この写真集は、1,000円のご寄付をいただいた方に1冊差し上げています。現在、残り在庫は150冊程となっています。ご希望の方はお早めにご連絡ください。(O)

開設20周年記念誌


開設設20周年記念誌

 これからのタンチョウ保護活動を考える上で、半世紀にわたるタンチョウ保護の歴史、そして、サンクチュアリの20年間の活動とその成果を整理し、形に残すことが必要だと考え、記念誌を作成しました。
 作成にあたっては、原稿執筆、聞き取りなど、ボランティアにもかかわらず多くの方々がご協力くださり、サンクチュアリ開設当初の様子や、給餌人のご苦労、村内での活動など、直接活動にかかわった方々のお話を載せることができました。編集作業は、レンジャー総出で明け方までかかったこともありました。しかし、それだけタンチョウ保護にかかわった方が多いこと、また、その歴史が想像以上に壮大であったことを実感しました。
 すでに、関係者への配布、希望者への頒布を始めていますが、おかげさまでご好評を博しています。「昔のことがよくわかりました」などのお言葉をいただけると、編集から発行までの苦労も報われる思いです。このような記念誌を発行できたことを誇りに思うとともに、ご協力いただいた皆さまには改めて感謝申し上げます。記念誌は1冊1,000円で実費頒布していますので、ぜひ、この機会にタンチョウ保護活動の壮大な歴史に触れてみてください。(W)

<記念誌の主な内容>

○グラビア
 サンクチュアリで見られた美しい光景、ハプニングや特徴的な個体の他、写真で綴 るサンクチュアリの活動紹介

○サンクチュアリの活動とその成果
 サンクチュアリの活動年譜/タンチョウサンクチュアリ前史/サンクチュアリの支え/これまでの活動と成果/サンクチュアリ歴代チーフレンジャーより

○タンチョウ保護活動の歴史
 タンチョウ保護活動の歩み/人工給餌の成功/タンチョウ保護増殖事業/タンチョウの繁殖状況調査/タンチョウ生息状況一斉調査/タンチョウ監視人/標識調査/タンチョウの事故/人工飼育/タンチョウと農薬/ラムサール条約湿地登録・釧路湿原国立公園/釧路湿原自然再生事業/鶴居村のタンチョウに関わる活動

○これからのタンチョウ保護


開設20周年記念切手
 オリジナル切手の製作にあたっては、使用写真の選出、全体のデザインなど、すべてレンジャーが実施しました。切手部分は2.3cm四方と小さく、しかも真四角の枠のため、その形に合う写真を選ぶことは意外に難しいことでした。また、切手の配置によって全体のイメージも大きく変わるので、レンジャー間でずいぶんと議論しました。できあがった切手を手にしたときの感慨はひとしおでした。
 製作枚数は、今年の調査で確認されたタンチョウの数と同数の1,013枚にこだわり、「タンチョウ1羽1羽を皆さんと一緒に守っていきたい」という想いを込めました。また、それぞれの写真の解説やエピソードを添えることで、タンチョウそのものや当会の活動にも興味を持ってもらおうと考えました。切手シート(1シート:80円切手×10枚)は、2,000円のご寄付をいただいた方に差し上げています。ぜひご協力をお願いいたします。(W)

開設20周年記念切手

ぬいぐるみ「タンチョウのたまご」

 1993年、当会の所有するタンチョウの繁殖地「持田野鳥保護区東梅」でヒナが生まれ、足環「T50」が装着されました。それを記念して、ぬいぐるみ「タンチョウのヒナ」が作られ、これまでサンクチュアリの一番人気の商品となっています。その後、さらに進化させたぬいぐるみ「タンチョウのたまご」の構想が生まれました。しかし、いろいろな障害があり、なかなか商品化に至りませんでした。開設20周年というタイミングで、改めて商品化への積極的な働きかけを実施し、ついに新ぬいぐるみが誕生したのです。構想から実に10年以上もかかってようやく商品化されました。
 ぬいぐるみは、「たまご」を裏返すと「ヒナ」に早代わりするもので、こちらもご好評を博しています。ひとりでも多くの方のもとに巣立っていってほしいと願っています。お値段は税込み2,625円です。(O)


たまごを…
ひっくり返すと…
ひなになります!
タンチョウのたまご


ワイルド・バード・シンフォニー第1番「白いファンタジア」

 厳密には開設20周年事業ではないのですが、当会の会員室メディアグループを中心に、タンチョウを主役にしたアニメファンタジーのDVDを製作し、頒布しています。
 製作にあたっては、監督に宇井孝司氏、音楽は渡辺俊幸氏、キャラクターデザインは村上康成氏と、そうそうたる皆さんに参加していただきました。また声優には、当会の柳生博会長も初挑戦しました。タンチョウをはじめ、生きものたちの声は実録したものを使用しました。音源は、当会の花田行博理事や阿寒国際ツルセンターからご提供いただき、タンチョウの声は、花田理事から機材をお借りしてレンジャーが録音しました。
 頒布に先駆け、7月には東京で試写会を開催し、9月には札幌で上映会も開催しました。両会場あわせて約800名の方が来場してくださいました。今年度中に、鶴居村や釧路市内でも上映会を企画しています。(O)


アニメDVD
「白いファンタジア」




子どもワークキャンプ「タンチョウレンジャーにチャレンジ!」

 開設20周年事業の最初のイベント。首都圏の子どもたちを主対象に、8月3日から2泊3日で、タンチョウ保護にかかわる活動を体験してもらいました。参加する子どもたちには、タンチョウや釧路湿原に触れ、その保護活動を体験することで、興味関心を深めてもらうこと、また、首都圏の子どもたちの活動の様子を地元の方々にも発信し、自分たちの住む環境のすばらしさを再認識してもらうことを目指しました。開催にあたっては、当会の普及教育グループと合同で行い、参加者25名と一緒に3日間行動をともにしました。
 活動は、タンチョウや釧路湿原の観察をはじめ、釧路湿原への土砂流入を防ぐための粗朶(そだ)作りと設置など、盛りだくさんの内容でした。プログラムの実施にあたっては、地元の自然保護団体「NPO法人トラストサルン釧路」にもご協力をいただきました。あっという間の3日間でしたが、子どもたちの笑顔や目の輝きに触れ、次世代を担う子どもたちのこれからに希望と期待を感じました。
 11月には、この活動の報告を兼ねた小冊子「こんにちはタンチョウ」も完成しました。サンクチュアリ開設当時に製作・編集したものをリニューアルしたもので、タンチョウのおもしろ話から保護活動までを分かりやすく解説しています。すでにトヨタレンタリース釧路の各店舗で、レンタカー利用者に配布していただいています。(O)

粗朶作りの様子
枝を束ねる作業に奮闘する子どもたち。


シンポジウム開催

 事業のメインイベントと位置づけたシンポジウム。10月28日には、東京海洋大学品川キャンパス楽水会館(港区)で、11月11日には、鶴居村総合センター(鶴居村役場庁舎内)で、それぞれ開催しました。両会場あわせて350名近くの方にお集まりいただきました。プログラムの内容は、以下の通りです。

東京会場

・主催者あいさつ/当会専務理事 鈴木君子

・タンチョウ保護と当会の活動のこれまで
      /鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ チーフレンジャー 音成邦仁

・釧路湿原保全のとりくみと地元の認識
   /NPO法人トラストサルン釧路 理事長 黒沢信道氏


・鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリでの
         フィールド・アシスタント・ネットワークの活動

   /フィールド・アシスタント・ネットワーク 中村秀次氏・石橋弘美氏


・これからのタンチョウ保護のあり方と当会の活動方針/当会道東事業統括 富岡辰先


鶴居会場

・主催者あいさつ/当会会長 柳生博

・来賓あいさつ/環境省釧路自然環境事務所長 北沢克巳氏     
       /鶴居村長 日野浦正志氏


・鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリの20年間の活動
       
/鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ チーフレンジャー 音成邦仁

・基調講演「コウノトリとタンチョウから地域の未来像の構想へ」
       
/兵庫県立コウノトリの郷公園 研究員 菊地直樹氏

・地域の子どもたちの取り組み
       /鶴居小学校6年 五十嵐碧さん・今井知紀くん・早川茉利さん
        原千夏さん・山本美沙希さん

       /幌呂小学校6年 長峰大樹くん・5年 鶴岡優希さん
       
/下幌呂小学校4年 阿部聖羅さん・田中万里菜さん
         3年 愛美里さん・飯田桃子さん
       
/幌呂中学校2年 小田徳馬くん・岸上千冬さん
       
/鶴居中学校3年 佐藤奈津子さん・2年 川村礼実さん

・パネルディスカッション:テーマ「地域とタンチョウの共存」

       /コーディネーター:黒沢信道氏(鶴居村かんきょう会議代表)
       
/パネラー:松井孝志氏(鶴居村タンチョウ愛護会会長)
             和田正宏氏(プロカメラマン)
             服部政人氏(鶴居村あぐりねっとわーく代表)
             瀬川貴志氏(酪農家)
             
音成邦仁                 

・これからのタンチョウ保護と日本野鳥の会の活動/(財)日本野鳥の会

 東京会場では、地元での活動をイメージしてもらう上で、黒沢氏の講演が効果的で、「タンチョウは隣人」など、地域で活動する方ならではの言葉が印象的でした。またフィールド・アシスタント・ネットワークからの活動紹介は、彼らのような若い世代が自然保護活動に深く関わっていることが伝わり、参加者の皆さんも心強く感じたのではないでしょうか。 現地に来られない方々にとって、タンチョウ保護の現状や地域での取り組みを実感していただく上で、よい機会になったのではないかと思っています。また、タンチョウ保護を推進していく上で、貴重なご意見も多数いただくことができました。


黒沢氏による講演の様子

フィールド・アシスタント・ネットワーク
の活動紹介の様子


 鶴居会場では、地域の子どもたちによる発表や地域住民によるパネルディスカッションを実施することで、地域と一体となったシンポジウムになったのではないかと思っています。また、おそらく全国でもはじめてとなる「タンチョウ」と「コウノトリ」をテーマとした講演が実現しました。講師の菊地氏は、コウノトリと人との関わりを環境社会学という立場から研究されており、その一環でタンチョウと人との関わりを知るために、何名かの給餌人にも聞き取り調査をされています。講演では、コウノトリに対する人側の意識の変化、コウノトリを切り口とした地域再生の取り組みの他、コウノトリとタンチョウとの保護活動の違いなど、興味深い内容ばかりでした。「地域とタンチョウとの共存」をテーマに開催したシンポジウムにふさわしい内容になったものと思っています。最後は、柳生会長より「タンチョウには、将来津軽海峡を越えてきてほしい」と夢も語られ、シンポジウムは終了しました。


地域の子どもたちによる発表の様子

菊地氏による基調講演の様子

 両会場とも、シンポジウム終了後は、これまでタンチョウ保護に尽力された方々、当会の活動に多大なご支援をいただいた方々に感謝状を贈呈しました。引き続き懇親会を実施し、タンチョウ談義に花を咲かせました。
 シンポジウム、懇親会を通じて、多くの皆さまに激励され、これからのタンチョウ保護推進に
向けた活動に大きな自信と責任を感じました。(O)


発表してくれた子どもたち一人一人に
言葉をかける柳生会長。

様々な立場の地域の方々にご出演いただいたパネルディスカッション。
 いろいろなご意見を伺うことができました。


最後は、柳生会長に呼ばれて会場にいた歴代チーフレンジャーや道東のレンジャー全員が壇上へ。
 今後ともご理解とご協力をいただけるよう、地域の皆さまにお願いしました。


 シンポジウム後に行われた懇親会では、長年タンチョウ保護にご尽力された給餌人の方々や当会の活動に多大なるご支援・ご協力をいただいた方々へ感謝状の贈呈を行いました。



番外編

 9月16日、村内の駅伝大会に「鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ開設20周年チーム」として、レンジャー4名に助っ人3名を加えた7名で出場しました。この駅伝大会は、村内をぐるっと一周する約28kmのコースを7名で競うものです。村内のスポーツ行事の中でももっとも歴史が古く、今年で46回目の大会です。
 2週間前くらいから、昼休みを利用してトレーニングを重ね、「完走」を目指しました。前日は、開設20周年記念誌の校正のため、朝方までの作業となり、不安を抱えてのスタートとなりましたが、無事にたすきをつなぎ、完走することができました。特に助っ人の方々は各区間で、上位の成績を上げてくださいました。レンジャーはといいますと、4名中3名が区間最下位。チームはもちろんダントツの最下位… それでも、みんなで力を合わせて走りきった達成感は、「開設20周年事業成功」へのはずみとチームワークの強化につながったような気がします。
 このような活動は、レンジャーが地域に溶け込み、タンチョウ保護や環境保全を進める上での潤滑油の役目もあるのではないかと思っています。参加して本当によかった。助っ人の皆さん、応援してくれた皆さん、ありがとうございました!


日本野鳥の会のこれからのタンチョウ保護活動

 開設20周年事業は、おかげさまで無事に終了いたしました。しかしこの事業は、これからのタンチョウ保護活動を推進する上で、再スタートを切るための取り組みです。これで「終わり」ではなく、これから「始まる」のです。私たちはこれから、タンチョウ保護のため、湿原保全のために何を進めていくべきなのでしょうか?

 タンチョウの個体数増加には、地域住民を中心とする冬季の給餌活動が大きく貢献しました。それは疑いようのない事実です。しかし、いくら冬季の給餌によって、厳冬期のエサ不足が解消されたとしても、繁殖できる環境がなければ数を増やすことはできません。現実には、繁殖に適した自然環境は減少しています。では、なぜ数が増えるのでしょうか? 実はタンチョウの生態的な順応によるところが大きいものと思います。これまでは、子育てのために広大な湿原をなわばりとして暮らしていたタンチョウが、小面積の湿原に巣を作り、ヒナをかえすと人里周辺で子育てをする、いわば「新世代タンチョウ」が増えているのです。タンチョウの個体数回復だけを考えれば、それでよいのかもしれませんが、もっと広い視野で見ると様々な問題が浮かび上がります。


 湿原環境には、タンチョウだけでなく、多くの生きものが暮らしています。中には、タンチョウのように順応できず、いつの間にか姿を消してしまう生きものもいるかもしれません。また、人里に進出したタンチョウによる人との軋轢、タンチョウの事故の拡大など、地域住民にとってもタンチョウにとっても、手放しで喜べる状況ではありません。さらに、依然として給餌に大きく依存するタンチョウは、冬季になると一部の地域に集中する傾向が続いています。これらの問題は、元をただすと、彼らの良好な生息環境の不足に起因します。

 タンチョウ保護活動は、環境省をはじめとする関係行政、タンチョウの研究者、給餌人、NGOなどが協力し、それぞれの得意分野を活かし、役割分担をして進められています。当会としては、個別では解決できない問題については、関係行政やタンチョウの研究者と協力して対応してきました。また、普及啓発や土地の確保など、得意分野については、積極的に展開してきました。今後も、越冬地の分散など、タンチョウに関わる団体や個人が連携して進める事業については、積極的に協力していき、タンチョウ生息地の確保や普及啓発活動については、関係者からのアドバイスや情報をいただきながら進めていきたいと考えています。


次なる目標

 タンチョウ保護を進めていく上で、次なる目標値を定めておくことは重要なことです。目標値の設定は非常に難しいところですが、当会では「個体数1,000羽」から「繁殖個体数1,000羽(500つがい)」を当面の目標としてはどうかと考えています。ただし、これまでのように給餌による冬季のエサ不足解消と、タンチョウの生態的順応に頼っていては何も前には進みません。キーワードは、「生息環境の保全」と「地域とタンチョウとの共存に向けた対策」のふたつだと思います。


繁殖環境の保全

 繁殖環境は現時点で不足しています。しかし、まだまだ減少していく可能性があります。現在の繁殖地のうち、半数近くは何の法規制もない場所だからです。まずは繁殖状況を把握し、保全すべき優先順位をつけ、その場所に応じた環境保全を推進していくことが必要です。当会では、これまで同様、中小規模の湿原の保全活動や、大規模な湿原の保全に対する働きかけや協力を推進します。




越冬環境の保全

 越冬環境の集中化は、以前から指摘されている問題点です。これまで個体数の回復を優先課題としてきたため、抜本的な対策はなかなかとれずにいましたが、数年前から越冬地分散に向けた調査やねぐら利用状況の調査・環境保全などを進めています。今後もこれらの活動を進めることが必要です。
 一方、タンチョウの個体数を維持・回復させる上では、引き続き、給餌活動は必要不可欠です。しかし、今年に入ってデントコーンの価格高騰など、継続していく上での懸案材料も見受けられるようになりました。今後の給餌活動のあり方が十分に議論されないまま、このような外部条件によって給餌活動が左右されてしまうとすれば、非常に憂慮すべき事態といえます。
 当会では、これまで同様、ねぐら利用状況の把握に努めるとともに、越冬期にタンチョウが必要としている給餌量の把握、さらには厳冬期でも凍らない河川や湧水地などの自然採食地の環境や利用状況の把握にも努め、越冬期の採餌環境・ねぐら環境の保全を推進します。





普及啓発活動

 当会は、タンチョウの生息する地域に拠点をもつ団体として、地域における普及啓発活動を実施するとともに、全国規模の日本最大の自然保護NGOとして、写真展などの全国展開活動を実施してきました。今後も当会では、普及啓発活動に力を入れていきます。
 タンチョウの個体数1,000羽への回復は、局地的な生息数の増加、それに伴うタンチョウの集中する地域での諸問題の発生にもつながっている現状があります。その結果、タンチョウの生息地域では、住民のタンチョウ保護活動への無関心や失速が懸念されます。しかし、これらの諸問題の背景には、湿原の減少、人間生活の変化、タンチョウの生態の変化など、様々な要因が複合的に絡んでいます。問題解決のためには、その原因を様々な角度から改善していく考え方を持たなければなりません。
 地域住民への普及啓発活動では、人とタンチョウの共存を様々な角度から検討することが大切です。長い目で見ると、特に子どもたちを主対象とした環境教育が不可欠です。主に、タンチョウ・ティーチャーズガイドを利用し、子どもたちに対して直接、または学校教員や自然ガイドと連携し、タンチョウに関する普及啓発活動を推進します。
 その他、観光客・カメラマンに対しては、タンチョウの生態的な魅力、これまでの保護活動の成果、人によるタンチョウへの悪影響などを普及啓発していくことが重要です。主に、来訪期間中の解説やイベント、フォトコンテストや写真展などの展示を通じて、タンチョウへの興味関心層を広げ、マナーの向上やタンチョウ保護の世論の高まりを目指します。また、野鳥保護区の見学ツアーやワークキャンプを実施し、野鳥保護区の意義やさらなる推進の必要性などを普及啓発していきます。



タンチョウ・ティーチャーズガイド改訂版
タンチョウを切り口とした学習プログラムを19本収録

くちばしにフィルムのフタが刺さってしまったタンチョウ
ひとりひとりの心がけで防ぐことのできる問題


新たな問題への対処

 当会の強みは、タンチョウの生息地に住み、タンチョウのことを常に考え、タンチョウの保護に従事できるレンジャーを配置していることです。レンジャーには、諸問題の最先端の情報を収集し、対処できるものは早急に対処し、できないものは情報を整理し、関係者へ報告していくことが求められています。特に、近年増加傾向にあるタンチョウの家畜糞尿の貯蔵タンクへの転落事故、貴重な生息域周辺の開発問題など、迅速な対応をしていきます。





終わりに

 ここまで示したタンチョウ保護に関わる当会の活動は、多くの方々のご理解、ご支援がなければ進めることはできません。タンチョウや湿原をはじめ、多くの生きものやその生息環境を守るため、皆さまの力をお貸しください。
 当会では、タンチョウ保護の拠点施設「鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ」の維持賛助会「タンチョウふぁんクラブ」を1998年度に立ち上げ、2007年度までの10年間ご支援をいただき、活動を続けてまいりました。この10年間で、タンチョウの個体数回復をはじめ多くの成果が得られました。しかし、新たな問題は山積みの状況であり、今後も引き続きタンチョウ保護活動の推進が必要です。つきましては、2007年度以降も、施設維持賛助会「タンチョウふぁんクラブ」を継続させていただくことになりました。今後ともご支援のほど、よろしくお願いいたします。(O)

タンチョウふぁんクラブ会員募集中

 私たちの活動を支える年会費1万円の賛助会です。ぜひ、この機会にご入会ください。詳しくは、同封のご案内チラシをご参照ください(ご継続中の会員の皆さまには同封しておりません)。ご入会いただいた皆さまには「開設20周年記念誌」を差し上げています。