タンチョウサンクチュアリ通信「ぴっけるぴっけ」 2007年 初夏号

発行:(財)日本野鳥の会 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ 
(編集:レンジャー 音成邦仁/渡邉美沙/伊東大輔/大熊千晶)

 春らしい暖かな日も増えてきて、湿原では初夏の花々が咲き始めました。小さなヒナを連れたタンチョウ親子の姿を目にする機会も増えてきました。皆さまとともに、タンチョウとその生息地を守るべく、レンジャー一同、今年度も張り切っています。(O)

タンチョウ生息状況一斉調査(北海道)の結果報告

 北海道では1952年より、タンチョウ生息状況の一斉調査を毎年実施しています。サンクチュアリも開設当初よりこの調査に協力しており、今回も12月5日と1月26日に実施された調査に参加しました。

 昨年1月に実施された調査では、はじめて1000羽を超えるタンチョウが確認され、絶滅の危機を最低限回避したと保護関係者を喜ばせました。今回も続けて1000羽超の確認が期待されましたが、やはり今年1月の調査で1013羽が確認されました(図)。

 2年連続で1000羽は超したものの、今回の確認数は前回の1081羽をやや下回りました。しかし、これはこの冬の暖冬の影響で越冬できる環境が多くなり、繁殖地周辺に居残る個体や、越冬地へ移動しても給餌場周辺の見つかりにくい場所に分散する個体がいたためと考えられています。

 地区別の確認数は、北海道釧路管内に976羽、根室管内に24羽、十勝管内に12羽といった内容でしたが、これまで越冬記録のない道南の渡島管内でも1羽が確認されました。今後、タンチョウの繁殖地が分散・拡大した場合の越冬の可能性を示唆するものとして注目されています。
 タンチョウは現在、子育ての真っ最中です。昨年は春先の悪天候のため、抱卵中の巣が水没するなど繁殖の失敗が各地で聞かれましたが、今年の状況はどうでしょうか。ゴールデンウィーク前後にはやはり降雨や増水があって巣の水没が心配されたのですが、その後村内では、ヒナを連れ歩く数つがいの姿が目撃されるようになりました。当会が設置している根室の持田野鳥保護区東梅、渡邊野鳥保護区ソウサンベツ、渡邊野鳥保護区フレシマでもヒナが確認されました。彼らが飛べるようになるには約100日かかりますが、無事に、しっかりと大きくなってもらいたいものです。(I)


開設20周年事業のための営業と進捗状況
 今年度、サンクチュアリは開設20周年を迎えます。千羽を超えたタンチョウの、これからの保護活動のあり方を考える大切な時期が来ています。タンチョウ保護活動の歴史や今後の活動のあり方について、多くの方々に理解を深めていただくことが、同時期に開設20周年という節目を迎えたサンクチュアリの役割のひとつと考え、「開設20周年事業」を計画しました。事業内容は、シンポジウムの開催や記念誌の発行、オリジナル写真集や切手の製作などを予定しています。これらの企画を実施するためには、当然のことながら資金が必要です。現在、資金確保に向けた企業営業活動もあわせて行っています。今回は、レンジャーの営業活動と事業の進捗状況についてご報告します。(W)

事業への協賛を募る営業活動

営業活動は、多くのタンチョウが生息する道東地域の他、北海道の中心である札幌でも行っています。営業経験のないレンジャーとっては、訪問の約束を取り付けることすら難しく、電話でどう話せば関心を持っていただけるのかと、もどかしくなったりもしました。そんな中、時間を取ってお会いくださった企業の方々にはとても感謝しています。

 営業のノウハウのない私たちにできることは、とにかくタンチョウの保護の必要性や、タンチョウへの思いを伝えることしかありません。様々な協賛依頼の話が来る企業の方にとって、私たちの活動は多くの環境保全活動のひとつに過ぎないのかもしれません。それでも、ご支援をい
ただいている皆様の代表として、日本では北海道にしか生息していないタンチョウの現状とこれからや、私たちの活動、多くの方々が協力することの大切さを中心に説明をしています。おかげさまで数社よりご協賛をいただくことができました。
 一方、協賛の可否に関わらず、企業へ訪問したことの意義は大きいと思っています。本事業への協賛獲得ももちろん大切ですが、今回の営業が、今後のタンチョウ保護活動に必要な地元の企業との連携や協力体制づくりの第一歩にもなったと思うからです。来年以降も続くタンチョウ保護活動の推進も視野に入れて、引き続き営業活動を続けていきます。

13回タンチョウイラスト展 阿寒湖中1年 藤原諄也さん

開設20周年記念誌の発行

開設20周年記念誌は、主に地元の方々の努力や当会のこれまでの活動など、タンチョウ保護活動の歴史を整理して発信し、より理解を深めていただくことを目的としています。記念誌の発行にあたっては、主に鶴居村内の事業者の方々に趣旨をご理解いただき、ご協賛をいただきたいと考え、現在、村内を中心にご協力のお願いに回っています。

オリジナル写真集の製作

コニカミノルタホールディングス株式会社からは、毎年「コニカミノルタ・タンチョウチャリティポストカード」および「同フォトコンテスト」の実施に協賛をいただいています。今年度は、さらに本事業への協賛をいただき、写真集の製作を進めています。写真集に収録する作品を、これまで6回行われたフォトコンテストの全入賞作品120点の中から39点選出しました。タンチョウの美しい写真とともに、タンチョウ保護活動の現状や今後について、多くの方々に伝えていきたいと思っています。


レンジャーからのご挨拶

音成邦仁(おとなり くにひと)

 鶴居にやってきて、早いもので7年目を迎えます。この6年で、多くの方々と出会い、自分なりに「タンチョウ」や「タンチョウに関わる人たち」と向き合ってきました。前職のサービス業で培った「人と向き合う」10余年の経験は、今の取り組みの中で大いに活かされていると実感しています。これからも、「人と向き合う」ことの大切さを忘れずに、「人にもタンチョウにも住み良い環境」を保全することが私のテーマです。

 今年、鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリは開設20周年を迎えます。前述の通り、まさに「これまで」を見つめ直し、「これから」を考えていく重要な年です。レンジャー一同、「開設20周年」を迎えられる喜びと責任の重さを痛感しています。多くの方々とともに、節目の年だからこそできるいくつかの記念企画を成功させ、タンチョウ保護推進の再スタートを切りたいと思っています。ご期待ください。

渡邉美沙(わたなべ みさ)
 インターンとして任期の2年を過ごし、開設20周年事業の担当として3年目を迎えることになりました。一年一年がとても早く感じますが、毎年、新たに発見することや感じることがあり、タンチョウへの愛着が増していきます。また、同時にタンチョウに関わる問題が、私が携わったこの短期間でも増えているように感じます。
 
 野生生物を保護する上で、人との共存は大きな課題だと思います。千羽を超えるまでに生息数が増加したタンチョウの保護活動は、この課題にしっかりと正面から向き合うことが必要なのだと実感します。開設20周年事業は、たくさんの人にこれまでの保護活動を知ってもらい、今後の活動を一緒に考えてもらえる機会だと思います。20周年事業の担当として、この機会に立ち会えたことに責任を持って、自分にできる限りの活動をしたいと思っています。今年度も皆様の温かいご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます。

伊東大輔(いとう だいすけ)

 インターン1年目は瞬く間に過ぎ、早くも2年目に入りました。1年を経て改めて思うのは、タンチョウ保護の難しさです。

 タンチョウは主として冬季の給餌によって個体数を増し、絶滅を回避してきました。しかし、良好な自然状態の本来の生息地が減少を続けた結果、増えた個体は狭い地域に過密状態で暮らしています。そしてこのことが、人里での事故や農業における食害などの問題を強化しています。また、過密状態を解消する分散化を図ろうにも、タンチョウはすでに地域の重要な観光資源となっていますし、分散化の具体的な手法も明確ではありません。

 これらの課題の克服には、タンチョウに関わる多くの人による議論、互いの意思疎通が不可欠です。今年は開設20周年という節目を機会に、より多くの方に問題を提起し、意見を集め、人とタンチョウとのより良い関係を模索したいと思います。また、タンチョウを通じて、人と自然とのより良い関わりについても真剣に考えていきたいと思っています。

大熊千晶(おおくま ちあき)
 はじめまして。今年の5月からインターンレンジャーとして勤務させていただいております、大熊千晶と申します。埼玉県生まれの埼玉県育ち、雪国未経験、生き物好きの23歳です。
 鶴居村には学生時代に一度だけ訪れたことがあり、夕空を背景に飛ぶタンチョウの姿にとても感動した思い出があります。まさか自分がレンジャーとしてその地に再び来ることになろうとは、あのときは想像もしませんでした。
 レンジャーとして着任して初めて見たタンチョウは畑の中。人を目の前にしても逃げない人馴れした個体でした。そのあまりの距離の近さにとても困惑しました。畑に侵入するタンチョウの追い払いを通じて、タンチョウによる食害について知り、改めて人と自然との距離を保つ難しさを実感しました。
タンチョウを取り巻く自然環境、そしてそこに関わる人々。これから鶴居の自然に触れ、多くの方々と出会い、人と自然の橋渡しをするお手伝いが少しでもできればと思っています。今年は開設20周年。この節目にタンチョウに関われることを大きなやりがいと感じ、頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

13回タンチョウイラスト展 鶴居小2年 酒田茜空さん