タンチョウサンクチュアリ通信 2006年 祝!タンチョウ千羽特別号

ついにタンチョウが千羽に達しました! これを記念して紙面のイメージも一新しました。2006年度もよろしくお願いいたします。
発行:(財)日本野鳥の会 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ 
(編集:レンジャー 音成邦仁/渡邉美沙)

祝! タンチョウ千羽

 北海道では、タンチョウの生息する北海道東部(道東)を中心とした各所で、同時刻にタンチョウを数える「タンチョウ生息状況一斉調査」を実施しています。タンチョウの生息数を調査し、その推移、状況を把握することによって、今後のタンチョウの保護管理のための基礎資料とすることを目的としています。

 今年1月の調査で、はじめて千羽を超える1,081羽のタンチョウを確認することができました。1952年(昭和27年)の第1回目調査で33羽を記録して以来、サンクチュアリの設置が決まった1986年(昭和61年)には383羽が確認されるまでになりました。そして現在、その数は約半世紀をかけて30倍にまで回復したのです。

 タンチョウ保護の当面の目標は、絶滅の危機を脱する最低限の数と言われる「千羽」でした。その目標は果たされたことになり、関係者や地元の方々の喜びはひとしおです。また、皆様方をはじめとする多くの方々のご支援が、私たちの活動の大きな後押しとなったことは言うまでもありません。この場を借りて、心より御礼申し上げます(O)。

※調査日の天候などにより確認数にばらつきが出てしまうため、年によって増減があります。
 実数は年々増加傾向にあるものと推測されます。


これからの課題

 タンチョウは千羽を超え、タンチョウの保護活動は新たな局面を迎えています。千羽に増えたとはいえ、タンチョウの生息域は道東に集中しており、以前より生息域の過密化が問題視されていました。これに加え、タンチョウに関わる新たな問題も生じています(O)。


生息域の過密化
 生息域は、大まかには繁殖地と越冬地に分かれます。現在、繁殖地は道東の湿原に、越冬地は鶴居村と釧路市阿寒町に集中しています。タンチョウが繁殖をするためには広大な湿原が必要ですが、子育てに適した湿原は減少しています。昨春に道北のサロベツ原野でタンチョウが子育てに成功したことで、繁殖域の自然拡大にも期待がかかります。しかし、道東における湿原の減少に歯止めをかけることも重要です。越冬地に関しては、環境省が新たな地域に越冬環境を整備する取り組みを行っています。また、繁殖域同様、周辺地域に自然拡大する傾向も見られています。

 いずれにしても、生息域の過密化の解決には時間がかかりますが、地道に活動を続けることが必要です。環境省では「タンチョウ保護増殖事業ワーキンググループ」を立ち上げ、給餌活動を中心とした今後のタンチョウ保護のあり方を検討しています。レンジャーも委員としてこの会議に出席し、当会や皆様の想いを国に伝えるべく意見を述べています。


新たな農業被害
 鶴居村ではここ数年、タンチョウが牛舎に入り込み、牛の餌を食べたり糞を落としたりする被害が目立っています。湿原の減少や人里への適応とともに、開放的な牛舎の普及に伴い、タンチョウが餌場として利用しやすくなったことが主な理由と考えられます。

 現状では、牛舎に入り込めなくなるよう網を張ることで対処しています。現在は限られた農家でしかこの問題は発生していませんが、これから周辺に拡大する可能性もあります。村や地域住民とともにこの問題に取り組んでいくことが大切だと思います。

牛舎に入り込み牛の餌を食べるタンチョウ


観光客の増加
 近年、特に鶴見台では、ツアーバスの団体観光客が目を引きます。多くの方々にタンチョウを見てもらえることはうれしいことなのですが、中にはタンチョウにモノを投げつけて飛ばそうとしたり、大騒ぎをしてしまう方がいます。また短時間の観察では、タンチョウの魅力やこれまでの地元の方々の努力は伝わりません。せっかく大勢の方がいらっしゃるので、タンチョウに悪影響の出ない観察のあり方やこれまでの地元の活動も伝えていくことが大切だと思います。

2005年度の主な活動
 皆様からのご支援をもとに、私たちは活動しています。2005年度の主な活動をご報告いたします。詳細につきましては、6月ごろに発行予定の「2005年度年次報告書」で改めてご報告いたします(O)。

野鳥保護区の設置
 2005年度は、残念ながら新たな野鳥保護区を設置することはできませんでした。釧路湿原や厚岸町と標茶町にまたがる別寒辺牛湿原の重要な繁殖地の買い取りに向け、現在も引き続き、情報収集や土地所有者との交渉を複数箇所で実施しています。


農業被害防止対策
 デントコーン(牛の飼料となるトウモロコシ)畑での食害対策は、2004年度から鶴居村が主導するようになりました。これまでサンクチュアリが実施していた対策を継続し、今年度も大きな被害は確認されませんでした。また、11月に行われた実施報告会にも出席し、タンチョウ保護と地域の基幹産業である酪農との共生に向け、意見交換をしました。

 一方、牛舎内に入り込むタンチョウの侵入防止の対策については、行政や地元の農家と協議を進め、周辺に網を張るなどの対策をし、その効果を調べています。


ねぐら調査
 タンチョウが冬を越すためには、冬でも凍ることのない水辺が必要です。鶴居村では雪裡川という不凍河川が、タンチョウのねぐらとして利用されています。しかし、どのような環境がねぐらに適しているのか、データが不足しています。2005年度は、どこをどれくらいの数のタンチョウがねぐらとして利用しているのか調査しました。データを蓄積することで、今後のねぐら環境保全に活用していきたいと思います。

 また、雪裡川の中でもっとも多くのタンチョウがねぐらとして利用する音羽橋の下流域に、中洲が発達しヤナギが繁茂していました。冬になると音羽橋には、多くの方々がねぐら観察のために訪れます。しかし、ヤナギがその視界をさえぎり、観察に支障をきたす状況となっていました。観察場所を確保することは、観光面はもちろん、タンチョウにとって安定したねぐらを確保する面からも重要です。観察場所がなくなると、不用意にタンチョウのねぐらに近づく人が出てくる可能性があるからです。そこで、タンチョウのねぐら観察場所を確保するため、地域の方々と協力して中洲のヤナギ伐採作業を実施しました。

学生ボランティアに協力を得て実施したねぐら調査 地元の方々と協力して実施した中洲のヤナギ伐採作業


タンチョウの営巣環境復元区域での調査
 釧路湿原西部に、当会の所有する野鳥保護区「早瀬野鳥保護区温根内(19.5ha)」があります。もともとはタンチョウが営巣していましたが、ハンノキの増加により、タンチョウが営巣しなくなりました。ハンノキ増加の原因は、湿原上流部の丘陵地で樹木が伐採されたことで、土砂が上流から湿原内に流入しているためと考えられました。そこで周辺の開発行為により増加したハンノキを1999年から伐採し、タンチョウの営巣に適したヨシ原の復元を目指しました。この活動が実り、2002年からタンチョウは毎年営巣するようになりました。

 2005年度は、伐採したハンノキの切り株から出る萌芽(ほうが:切り株から出てくる芽)の状況調査を実施しました。この結果、ハンノキの切り株からはほとんど萌芽が見られず、湿原はタンチョウの営巣にとって良好な環境を維持していることがわかりました。

学生ボランティアの協力を得て実施したハンノキの萌芽調査


タンチョウ・ティーチャーズガイドによる普及活動
 2004年に製作した「タンチョウ・ティーチャーズガイド(以降TTG)」は、タンチョウを切り口とした教材集です。指導的な立場にある方々に利用してもらうことで、普及啓発活動を進めていこうというものです。講習会を実施し、参加していただいた方にTTGを差し上げています。

 2005年度は5回の講習会を実施し、91名の方が参加されました。また、TTGを利用した普及啓発活動は、道東の小中学校を中心に27回894名に対して実施されました。

TTGを利用した授業の様子(村内の小学校にて)


コニカミノルタ・タンチョウチャリティフォトコンテスト入賞作品展
 コニカミノルタ・タンチョウチャリティフォトコンテスト入賞作品展は、今年で4回目となります。2005年度は、地元スーパーやタンチョウの繁殖地拡大が期待される十勝地方の他、東京のオフィス街や九州地方といった新たな場所で実施することができました。

 地元のスーパーでは、入賞作品となった写真をよく見るとわかるタンチョウの生態を、クイズにした「タンチョウクイズラリー」などのイベントも実施しました。イベントを実施した4日間で1,000名以上の方にいらしていただきました。

釧路市内のスーパーで実施した入賞作品展の様子